漢字に発音・意味・構造上の漢字の仲間があります。今日は非、悲、俳、排、扉、誹、緋、悱、斐、翡、輩という漢字の仲間について説明します。基本の漢字は『非』fēiで、読み方は『ヒ』か『ハイ』、意味は『そむく』、『左右』、『~ではない』、『みとめない』、『そしる』です。漢字学者の藤堂はこのような漢字の仲間を『単語家族』と表現していました。
『単語家族』の漢字は足し算で表わす事が出来るので、『単語家族』ごとにまとめて漢字を覚えると便利です。『非』に何を足すとどんな漢字になるのかを考えます。悲は小学校3年生で習う漢字 、非は小学校5年生で習う漢字 、俳は小学校6年生で習う漢字 、扉、排、輩は中学校で習う漢字、緋、斐は人名用漢字です。学校、学年に関係なく一緒に覚えましょう。
『非(ヒ)』fēiは、羽が左と右にそむいた様子を象(かたど)った象形文字です(藤堂)。漢字の部首は『非・あらず』、意味は『そむく』、『~ではない』、『みとめない』、『そしる』などの多くの意味があります。櫛(くし)を描いているという説(白川)もあります。漢字の意味は同じです。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』です。常ではないことを非常(ヒジョウ)、人の悪い点をそしることを非難(ヒナン)、正しい事(是)と認められないこと(非)を是非(ゼヒ)といいます。
非(ヒ)は小学校5年生で習う漢字です。
『悲(ヒ)』bēiは、左右にに別れた人物を表す形声文字です。漢字の足し算では、非(左右に別れる)+心=悲(胸が裂けるようなせつない気持ち。悲しい)です。漢字の部首は『心・こころ』です。漢字の意味は『悲(かな)しい』、『悲しい気持ちを取り除く』、『あわれむ』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』です。訓読みは『悲(かな)しい』です。悲しく哀れなことを悲哀(ヒアイ)、悲しい見方(観)を悲観(ヒカン)、悲壮な願い・仏教でいう救いの誓いを悲願(ヒガン)、慈(いつく)しみ悲しい気持ちを取り除くことを慈悲(ジヒ)といいます。
『かなしい』は哀(かな)しいとも書きます。死者を送る哀しさといわれています。詳しくは『漢字の覚え方 衣』をご覧ください。
悲(ヒ・かなしい)は小学校3年生で習う漢字です。
『俳(ハイ)』páiは、二人の俳優が演じている様子を漢字にした形声文字です。漢字の足し算では、イ(人間)+非(相対する二人)=俳(二人の俳優が演じる)です。漢字の部首は『イ・にんべん』、意味は『俳優』、『掛け合いの芸』、『俳句』、『右左に歩く人』です。
音読みは呉音が『ベ』、漢音が『ハイ』です。俳優(ハイユウ)、俳諧(ハイカイ)、俳句(ハイク)の俳です。
俳諧(ハイカイ)とは『おどけ』、『こっけい』味を持つ和歌・連歌のことで、この連歌の発句(ホック)が独立したものを俳句(ハイク)といいます。俳に『演じる』、『面白味』、諧に『調和』、『たわむれる』の意味があります。
俳(ハイ)は小学校6年生で習う漢字です。
『排(ハイ)』pái は、両側へ手で押し開く様子・排除する様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、扌(手)+非(両側)=排(両側へ手で押し開く。排除する)です。部首は『扌・てへん』、意味は『排除する』、『両側へ開く』です。『両側に並べる』の意味もあります。
音読みは呉音が『ベ』、漢音が『ハイ』です。排除(ハイジョ)、排水(ハイスイ)、排斥(ハイセキ)、排泄(ハイセツ)、按排(アンバイ)の排です。
『うまく並べる』の按排(アンバイ)は按配、塩梅、案配とも書きます。
排(ハイ)は中学校で習う常用漢字です。
『徘(ハイ)』páiは、左右にあてもなく徘徊(ハイカイ)する様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、彳(行く)+非(左右)=徘(左右にあてもなく歩く。さまよう)です。部首は『彳・ぎょうにんべん』、意味は『さまよう』の意味もあります。
音読みは呉音が『バイ』、漢音が『ハイ』です。さまよい歩きまわることを徘徊(ハイカイ)といいます。
徘(ハイ)は常用漢字から外れています。
『扉(ヒ)』fēi は、左右に開く扉(とびら)を漢字にした形声文字です。漢字の足し算では戸(とびら)+非(左右)=扉(左右に開く扉)です。部首は『戸・とだれ』、意味は『扉(とびら)』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』で、訓読みは『扉(とびら)』です。門扉(モンピ)の扉です。
扉(ヒ)は中学校で習う常用漢字です。
『悱(ヒ)』fěiは、いらだつ様子を表す形声文字です。漢字の足し算では忄(心)+非(左右に開く)=悱(心がはりさけるように苛立つ。いらだつ)です。部首は『忄・りっしんべん』、意味は『苛立(いらだ)つ』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』で、訓読みは『悱(いらだ)つ』です。心の中にわだかまっていて、口に出さない憤(いきどお)りを悱憤(ヒフン)といいます。
論語に「悱(ヒ)せずんば発せず」という言葉があります。「相手が胸の中のことを外へ押し出そうとしていらだつまでは、糸口を開いてやらない」という孔子の教育への理念を示した言葉です。
悱(ヒ)は常用漢字から外れています。
『誹(ヒ)』fěiは、悪口を言い合う様子・仲を裂く様子を漢字にした形声文字です。漢字の足し算では言(言葉)+非(並ぶ・仲を裂く)=誹(悪口を言って非難する。誹る。そしる)です。部首は『言・ごんべん』、意味は『誹(そし)る』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』で、訓読みは『誹(そし)る』です。悪口を言って誹・謗(そし)ることを誹謗(ヒボウ)、悪口を言って名誉を傷つけることを誹毀(ヒキ)といいます。
謗(そし)るは方の仲間の漢字です。詳しくは 『漢字の覚え方 方』をご覧ください。
誹(ヒ・そしる)は常用漢字からはずれています。
『斐(ヒ・ハイ)』fěi は、左右対称の美しい模様を表す形声文字です。漢字の足し算では非(並ぶ)+文(模様)=斐(左右対称の美しい模様。あや)です。部首は『文・ぶん』、意味は『斐(あや)』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』で、慣用音が『ハイ』、訓読みは『斐(あや)』です。左右対称で美しい様を斐然(ヒゼン・ハイゼン)といいます。
美しさを表すとておも良い漢字で、『あきら』、『あや』、『あやる』、『い』、『なが』、『よし』と名前に使われます。
『あや』について、漢字の世界では幾通りも漢字があり、ニュアンスの違いがあります。
文 紋(あや) 文字や家の紋章などの模様 『漢字の覚え方 文』
采 彩 綵(あや) 果物の色模様や色のついた模様 『漢字の覚え方 采』
斐 (あや) 左右対称の美しい模様 『漢字の覚え方 非』
絢(あや) 糸が旬(めぐ)る美しい模様 『漢字の覚え方 旬』
綾(あや) 糸が浮き出る美しい模様 『漢字の覚え方 夌』
綺(あや) 糸や織物の綺麗で美しい模様 『漢字の覚え方 奇』
『麗(レイ)』lìは、鹿の角が並んで麗(うるわ)しく美しい様子
『綾(リョウ・あや)』língは、糸が夌(浮き出る)る模様の美しい様子
『絢(ケン・あや)』xuànは、糸が旬(めぐ)る様な模様の美しい様子
『華(カ・はな)』huá は、花の様に美しい様子
『美(ビ・うつくしい)』měiは、古代中国人が大切にしていた羊の美しい様子
『羅(ラ)』luóは、網状の薄い絹織物の美しさを表す漢字です。
斐(ヒ・あや)は人名用漢字です。
『翡(ヒ)』fěiは、鮮やかな美しい模様の鳥、かわせみの雄(おす)を表す形声文字です。漢字の足し算では非・斐(鮮やかな・美しい)+羽(模様)=翡(鮮やかな美しい模様の鳥、かわせみ)です。部首は『羽・はね』、意味は『翡翠(かわせみ)』、『翡翠(ヒスイ)』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』です。鮮やかで美しい鳥で、雌を翠(スイ・粋な色の鳥)cui http://bit.ly/1Nuy3Xb といい、雄雌(シユウ・おすめす)合わせて翡翠(ヒスイ・かわせみ)です。また、翡翠(かわせみ)色の鮮やかな緑の宝石も翡翠(ヒスイ)といいます。
実際は雄雌に色の違いは殆どなく、腹側の色が緋(鮮やかな美しい赤)色で、背中側の色が翠(鮮やかな美しい緑・青)です。大和言葉の川蝉(かわせみ)は雛(ひな)の鳴く声が蝉(せみ)の様だからといわれています。
『輩(ハイ)』bèiは、同じような車が並んでいる様子を表す形声文字です。漢字の足し算では非(並ぶ)+車(馬車)=輩(同じ車が並ぶ。ともがら。仲間)です。部首は『車・くるま』、意味は『輩(ともがら)』、『仲間』です。
音読みは呉音が『ヘ』、漢音が『ハイ』です。訓読みは常用外に『輩(ともがら)』があります。先の世代の仲間を先輩(センパイ)、後の世代の仲間を後輩(コウハイ)、優れた人々(仲間)が続けて出ること輩出(ハイシュツ)といいます。
輩(ハイ・ともがら)は中学校で習う常用漢字です。
『緋(ヒ)』fēiは、鮮やかな美しい色を表す形声文字です。色では鮮やかな赤を指します。漢字の足し算では糸(色)+非・斐(鮮やかな・美しい)=緋(鮮やかな美しい赤)です。部首は『糸・いと』、意味は『鮮やかな赤』です。
糸は染色されるので、色を表す漢字に使われます。
紺 http://bit.ly/1xOj18b 青を含む(甘)色
緑 http://bit.ly/1FE8NJa、竹皮を剥(は)がす(彔)時の緑色
紫 http://bit.ly/1sPxUXG 赤と青を並べて(此)混ぜた色
紅 http://bit.ly/101tzpr、 口紅などの色
緋 http://bit.ly/1qQSVwG 鮮やかな(非)美しい赤 などです。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』です。緋鯉(ヒごい)の緋です。
緋(ヒ)は人名用漢字です。
『鯡(ヒ・にしん)』fēiは、鯡(にしん)や鯡の卵を表す形声文字です。鰊(にしん)の卵が非に似ているからです。漢字の足し算では、魚(さかな)+非(櫛や卵の形・左右にわかれる)=鯡(魚の卵が左右に分かれて目立つ魚。鯡。にしん)です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヒ』、訓読みは『鯡(にしん)』です。鯡(にしん)は鰊(にしん)http://bit.ly/1KghoIw と書くことが多いです。魚に関しての漢字は『部首索引 魚』も御覧ください。
非(ヒ)を用いた漢字に罪(ザイ・つみ)があります。もともと辠(ザイ・つみ)という漢字だったといわれています。
『罪(ザイ)』zuìは、罪(つみ)を表す漢字です。漢字の足し算では、罒(網)+非(悪いこと)=罪(網をかぶせて悪いことを取り締まる。法にそむいた行為。罪。つみ)です。漢字の部首は『网・あみがしら』、漢字の意味は『法にそむいた行為』、『刑罰』、『悪いこと』です。秦の始皇帝のときに造られた新しい漢字です。
もとの漢字は、辠(ザイ)で皇(コウ)と似ているために書き換えられたといわれています(藤堂)。漢字の足し算で表すと、自(鼻)+辛(刃物)=辠(鼻を切り落とす刑罰)です。
音読みは呉音が『ザイ』、漢音が『サイ』、訓読みが『罪(ツミ)』です。罪をおかすことを犯罪(ハンザイ)、問われている罪の事実を罪状(ザイジョウ)、罪を犯した者の生命を絶つことを死罪(シザイ)、罪をわびることを謝罪(シャザイ)といいます。
罪(ザイ)は小学校5年生で習う漢字です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-d68c.html
http://bit.ly/1qQSVwG 『漢字の覚え方 非』 非 悲 俳 排 扉 誹 輩 緋 罪
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.ひじょう( )口。
2.悪行を ひなん( )する。
3.ひかん( )的な見方。
4.かな( )しい。
5.はいゆう( )の演技力。
6.はいく( )と短歌。
7.はいじょ( )条例。
8.とびら( )を叩く。
9.ひぼう( )中傷。
10.宝石の ひすい( )。
11.水辺の かわせみ( )。
12.こうはい( )に奢(おご)る。
13.小さな ひごい( )。
解答です。基本の漢字は非、悲しいは心を足して悲、俳優はイ(にんべん)を足して俳、扉は戸を足して扉、誹(そし)るは言を足して誹、美しい模様は文を足して斐、カワセミは羽を足して翡、同輩は車を足して輩、赤の緋は糸を足して緋です。
非常、非難、悲観、悲しい、哀しい、俳優、俳句、排除、扉、誹謗、翡翠、翡翠、川蝉、後輩、緋鯉