漢字の覚え方 艮
今日は『艮(コン)』gènという漢字の仲間(意味・発音上の漢字の仲間)について説明します。基本になる漢字は『艮(コン)』です。音読みは『コン』、意味は『あとにのこる』、『いつまでも』です。艮、根、恨、痕、眼、限、銀、墾、懇などがこの漢字の仲間です。藤堂はこのような漢字の仲間を『単語家族』と表現していました。
『単語家族』の漢字は足し算で表わす事が出来るので、『単語家族』ごとにまとめて漢字を覚えると便利です。『艮』に何を足すとどんな漢字になるのかを考えます。根、銀は小学校3年生で習う漢字 、眼、限は小学校5年生で習う漢字 、恨、墾、懇は中学校で習います。
『艮(コン)』gènは、目に痕(あと)に残る入墨を施した様子を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、目+匕(小刀)=艮(目に痕(あと)に残る入墨。あとにのこる)です。部首は『艮・こんづくり』、意味は『あとにのこる』、『いつまでも』、『動きがとれない』です。
また動きのない時刻、午前二時から四時までを『艮(コン・うしとら)』といいます。
音読みは呉音・漢音とも『コン』、慣用音が『ゴン』、訓読みは『艮(うしとら)』です。『うしとら』は丑寅とも書きます。『艮(コン・うしとら)』は常用漢字ではありませんが、根、恨、眼、限、銀、痕、墾、懇などの漢字の部首として広く使われています。
『根(コン)』gēnは、木の根をを表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、木+艮(あとに残る)=根(植物のあとに残る、動かない部分。根。ね)です。漢字の部首は『木・きへん』、意味は『根(ね)』、『本来の性質』、『拠り所』、『気力』、『数学の√』です。
音読みは呉音・漢音とも『コン』、訓読みは『根(ね)』です。物事の大切な部分、根と幹を根幹(コンカン)、物事の成り立つもとを根本(コンポン)、生まれつきの性質・強い精神力を根性(コンジョウ)といいます。
『根(コン・ね)』は小学校3年生で習う漢字 です。
『恨(コン)』hènは、人の恨(うら)みを表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、忄(気持ち)+艮(あとに残る)=根(心にいつまでも残る残念な気持ち。恨み。うらみ)、部首は『忄・りっしんべん』、意味は『恨(うら)み』です。
音読みは呉音・漢音とも『コン』、訓読みは『恨(うら)む』です。うらむ(怨む・恨む)ことを怨恨(エンコン)、非常に残念に思う気持ちを痛恨(ツウコン)といいます。
『うらむ』は、『怨(うら)む』とも書きます。怨は宛、婉などの漢字の仲間です。詳しくは『漢字の覚え方 夗』をご覧ください。
『恨(コン・うらむ)』は中学校で習う常用漢字です。
『痕(コン)』hénは、体に残る傷痕(きずあと)を表す形声文字です。漢字の足し算では、疒(病気・怪我)+艮(あとに残る)=痕(体に残る傷痕。きずあと)』、部首は『疒・やまいだれ』、意味は『傷痕(きずあと)』です。
音読みは呉音が『ゴン』、漢音とも『コン』、訓読みは『痕(あと)』です。傷の痕を傷痕(きずあと)、あとかたを痕跡(コンセキ)、血の痕を血痕(ケッコン)といいます。
『痕(あと)』は常用漢字の『跡(あと)』と書くのが普通です。跡(セキ)は亦(エキ)の『単語家族』です。詳しくは『漢字の覚え方 亦』をご覧ください。
『痕(コン・あと)』は常用漢字から外れています。
『眼(ガン)』yǎnは、頭蓋骨にはまっている眼を表す形声文字です。漢字の足し算では、目+艮(あとに残る)=眼(頭蓋骨にはまっている目。眼。まなこ)』、部首は『目・めへん』、意味は『目』、『目の穴』、『重要』、『見通す力』です。
音読みは呉音が『ゲン』、漢音が『ガン』、訓読みは『眼(め・まなこ)』です。ガラス製の視力矯正器具を眼鏡(ガンキョウ・めがね)、眼る力を眼力(ガンリキ)、眼の光・真実を見通す力を眼光(ガンコウ)といいます。
『眼』は小学校5年生で習う漢字http://bit.ly/1ViqkSL です。
『銀(ギン)』yínは、いつまでも錆(さび)ないで光る銀を表す形声文字です。漢字の足し算では、金(金属)+艮(あとに残る)=銀(いつまでも錆ないで光る金属、銀。ぎん)です。漢字の部首は『金・かねへん』、意味は『銀(ギン・しろがね)』、『銀貨・貨幣』です。
音読みは呉音が『ゴン』、漢音が『ギン』、訓読みは『銀(しろがね)』です。貨幣を扱う金融機関を銀行(ギンコウ)、旅費のことを路銀(ロギン)、白く輝く自転車を銀輪(ギンリン)、幕府直轄の銀貨の製造所を銀座(ギンザ)といいます。
『銀』は小学校3年生で習う漢字http://bit.ly/1Ro3ucXです。
大和言葉では、黄色に輝く金を黄金(こがね)、白く輝く銀を銀(しろがね)、赤く輝く銅(あかがね)、黒く輝く徹を鉄(くろがね)と呼んでいました。
非常に立派な漢字で『かね』、『しろがね』と地名・名字・人名に使われます。
金(キン)は今(キン)の『単語家族』、銅(ドウ)は同(ドウ)の『単語家族』です。詳しくは『漢字の覚え方 今』、『漢字の覚え方 同』をご覧ください。
『限(ゲン)』xiànは、岩や土を使っていつまでも残るように領地の境界を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、阝(土盛り)+艮(あとに残る)=限(岩や土を使っていつまでも残るように領地の境界。限り。かぎり)です。漢字の部首は『阝・こざとへん』、意味は『限(かぎ)り』、『区切り』です。
音読みは呉音が『ゲン』・漢音が『カン』、訓読みは『限(かぎ)る』です。物事の範囲の最後のところを限界(ゲンカイ)、定められた期間を期限(キゲン)、そこまでと範囲を定める(制)ことを制限(セイゲン)といいます。
『限(ゲン・かぎる)』は小学校5年生で習う漢字です。
『墾(コン)』kěnは、荒れ地を開墾(カイコン)する様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、豸(動物)+艮(あとに残る)+土=墾(動物が土を掘り返すように深く、力をこめて、開墾する)です。部首は『土・つち』、意味は『開墾(カイコン)する』です。
音読みは呉音・漢音とも『コン』、訓読みは常用外の『墾(ひら)く』です。荒れ地に鍬(くわ)や耜(すき)を入れて墾(ひら)くことを開墾(カイコン)、田んぼ墾(ひら)くことを墾田(コンデン)といいます。『墾』は中学校で習う常用漢字です。
『懇(コン)』kěnは、開墾(カイコン)する様に深く心をこめる様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、豸(動物)+艮(あとに残る)+心=懇(開墾(カイコン)する様に深く心をこめる。懇ろ。ねんごろ)です。部首は『心・こころ』、意味は『懇(ねんご)ろ』です。
音読みは呉音・漢音とも『コン』、訓読みは『懇(ねんご)ろ』です。親密な心・親しく付き合っている様を懇意(コンイ)・昵懇(ジッコン)、細かい所まで行き届く親切を懇切(コンセツ)といいます。『懇』は中学校で習う常用漢字です。
『艮(コン)』gènに近い漢字に『退(タイ)』tuìがあります。読み方が違いますが、ここでは同じ漢字の仲間として扱います。
『退(タイ)』tuìは、日の下で足が止まる様子を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、日+夊(足をひきずる)+辶(進む)=退(足をひきずって後退する。退く。しりぞく)です。部首は『辶・しんにょう』、意味は『退(しりぞ)く』、『引き下がる』です。
鋭い眼光にひるんで退く様子を表すとする説もあります。漢字の足し算では、辶(進む)+艮(鋭い眼光)=退(足をひきずって後退する。退く。しりぞく)です。
音読みは呉音・漢音ともに『タイ』、訓読みは『退(しりぞ)く』です。後ろへ退くことを後退(コウタイ)、遠慮して引き下がることを辞退(ジタイ)、病気が治って病院を出ることを退院(タイイン)といいます。
『退(タイ・しりぞく)』は小学校5年生で習う漢字http://bit.ly/1Dp5GoH です。
退(タイ)の漢字仲間には褪(タイ)、腿(タイ)などがあります。『漢字の覚え方 退』で説明致します。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-1bc2.html
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.うしとら( )の方角。
2.物事の こんかん( )。
3.こんじょう( )のある性質。
4.つうこん( )の失策。
5.けっこん( )が残る事件現場。
6.めがね( )をかける。
7.がんこう( )鋭く見通す。
8.ぎんこう( )の通帳。
9.給水 せいげん( )。
10.げんかい( )に挑戦。
11.田畑を かいこん( )する。
12.こんせつ( )丁寧。
13.出場を じたい( )する。
解説です。基本の漢字は艮、根(ね)は木を足して根、恨(うら)むは忄(りっしんべん)を足して恨、傷痕は疒(やまいだれ)を足して痕、眼は目を足して眼、銀は金(かねへん)を足して銀、限るは阝(こざとへん)を足して限、開墾は豸(むじな)と土を足して墾、昵懇は豸(むじな)と心を足して懇です。また、辶(しんにょう)を足すと退になります。
解答です。丑寅、艮、根幹、根性、痛恨、血痕、眼鏡、眼光、銀行、制限、限界、開墾、懇切、辞退。
おしまいに、漢字の成り立ちの話をしましょう。最古の漢字辞書は後漢(西暦100年頃)の許慎(キョシン)の「説文解字(セツモンカイジ)」です。許慎はその中で漢字の成り立ちについて、四種類あるとしました。
①.物の形を象った(かたどった)『象形文字』(ショウケイモジ)、②.象形文字を基に点を打つことにより示された『指事文字』(シジモジ)、③.文字を組み合わせて造った『会意文字』(カイイモジ)、④.意味と音を示す文字を組み合わせた『形声文字』(ケイセイモジ)の四種です。『会意文字』と『形声文字』は漢字の足し算で表す事が出来ます。
少し漢字の読み方の話をします。漢字の読み方には音(オン)読みと訓(くん)読みがあります。音読みには、漢字を輸入した時期により違いがあります。六朝時代の江南地方の読み・呉音(ゴオン)、唐の長安の読み・漢音(カンオン)、鎌倉時代に輸入した読み・唐宋音(トウソウオン)、日本で慣用的に読まれる慣用音(カンヨウオン)があります。訓読みは大和言葉(やまとことば)に合わせた読み方です。
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