漢字の覚え方 斤
今日は『斤(キン)』jīnという字を基本とした漢字の仲間について説明します。この漢字の仲間には斤(キン・おの)、近(キン・ちかい)、欣(キン・よろこぶ)、祈(キ・いのる)、質(シツ)、匠(ショウ・たくみ)、断(ダン・ことわる)、析(セキ・さく)、斥(セキ・しりぞける)、訴(ソ・うったえる)、所(ショ・ところ)という漢字が含まれます。これらの漢字は『斤(キン)』という同じ構成要素をもつので、漢字の足し算で表すことが出来ます。
漢字は足し算で表わす事が出来るものについては、意味を考えて漢字の足し算でを覚えると便利です。『斤(キン)』に何を足したら近(キン・ちかい)、欣(キン・よろこぶ)、祈(キ・いのる)、質(シツ)、匠(ショウ・たくみ)、断(ダン・ことわる)、析(セキ・さく)、斥(セキ・しりぞける)、訴(ソ・うったえる)、所(ショ・ところ)になるのかを考えます。近は小学校2年生で習う漢字 、所は小学校3年生で習う漢字 、質、断は小学校5年生で習う漢字 、斤、祈、斥、訴は中学校で習う常用漢字、欣は人名用漢字です。学年、学校に関係なく一緒に覚えましょう。
『斤(キン)』jīnは、斧(おの)を表す象形文字です。漢字の部首は『斤・おの』、意味は『おの』、『斤(おの)の重さ(約500g)or(600g)』です。
音読みは呉音が『コン』、漢音が『キン』、訓読みは『斤(おの)』です。斤(おの)は秤(はかり)の分銅に用いたので、目方の単位に使います。現在の中国では約500g、中国の唐~清時代、我が国、台湾、香港、マカオでは約600gの単位です。秤(はかり)ではかった目方を斤量(キンリョウ)といいます。
呉音の『コン』は漢音で『キン』と読むことがあります。音読みの呉音、漢音については『呉音と漢音』⑬もご覧ください。
斤(キン・おの)は中学生 で習う常用漢字です。『斤』を目方に使うため、『おの』は『斧(おの)』の漢字を使うことが多いです。
明治初期において、パンの重量は英国の1ポンド(約450g)が基準で、これに『斤』をあてていました。パンの数量に斤を使うのはこのためです。現在、我が国ではパン一斤(イッキン)は340g以上とされています。
『近(キン)』jìnは、斧(おの)が近づく様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、辶(行く)+斤(キン・おの)=近(斧が近づく様子。近づく)です。漢字の部首は『辶・しんにょう』、意味は『近(ちか)い』です。
『説文解字』には「附くなり。辵に従い斤の聲」とあります。辵は楷書体では辶(しんにょう)のデザインになります。
音読みは呉音が『ゴン』、漢音が『キン』、慣用音が『コン』、訓読みは『近い(ちかい)』です。近所(キンジョ)、近衛(コノエ・コンエ・キンエイ)、遠近(エンキン・とおちか)、近鉄(キンテツ)、近江(おうみ)の近です。
近(キン)は小学校2年生で習う漢字 です。
近江(おうみ)は琵琶湖のことです。淡海(あわうみ→おうみ)から来ていて都(京都)に近い江(みずうみ)なので近江という漢字をあてます。都から遠い湖、浜名湖を遠江(とおとうみ)といいます。
近いの反対は遠いです。『遠(エン)』は袁の漢字の仲間です。詳しくは『漢字の覚え方 袁』 をご覧ください
漢字の部首は『辶・しんにょう』は足で道を行くことを表しています。足の向きや状態はいろいろあります。
☆前向きの場合 進(すす)む 迫(せま)る 迎(むか)える 邀(むか)える 近(ちか)づく 過 (すぎ)る 逼(せま)る 追(お)う 逢(あ)う 遇(あ)う 遭(あ)う 遘(あ)う 逅(あ)う 連(つら)なる
☆後ろ向きの場合 退(しりぞ)く 逆(さか)らう 逃(に)げる 逡(しりぞ)く 遁(のが)れる 避(さ)ける 遠(とお)のく 遺 (のこ)す
☆廻る場合 廻 (めぐ)る 巡(めぐ)る 辺(あた)り 遍(あまね)く
『欣(キン)』xīnは、欣(よろこ)ぶ様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、斤(近く)+欠(体を曲げるて悦ぶ)=欣(近くで体を曲げて笑う。よろこぶ)です。漢字の部首は『欠・あくび』、意味は『欣(よろこ)ぶ』です。
音読みは呉音が『コン』、漢音が『キン』、慣用音が『ゴン』、訓読みは『欣(よろこ)ぶ』です。欣ぶ・喜ぶことを欣喜(キンキ)、極楽浄土に往生することを求めることを欣求浄土(ゴングジョウド)といいます。
大変良い意味の漢字で、『きん』、『やすし』、『よし』と名前に使われます。
欣(キン)は人名用漢字です。
『祈(キ)』qíは、神様が近づく様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、示(神様・祭壇)+斤(近づく)=祈(神様が近づく様子。願いを近づける。祈る)です。漢字の部首は『示・しめすへん』、意味は『祈(いの)る』です。
音読みは呉音が『ギ・ゲ』、漢音が『キ』、訓読みは『祈(いの)る』です。神仏に願いをかけて祈(いの)ることを祈祷(キトウ)、神仏に心こめて祈ることを祈念(キネン)、祈り願うことを祈願(キガン)といいます。
祈(キ)は中学生 で習う常用漢字です。
質(シツ)、匠(ショウ)、断(ダン)、析(セキ)、斥(セキ)、訴(ソ)、所(ショ)、は斤(キン)と読み方の違う会意文字ですが、この章では斤(キン)の仲間の漢字として扱います。
『質(シチ・シツ)』zhìは、実質のある物事の価値を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、斤+斤(秤の錘。釣り合う)+貝(財宝・価値)=質(物事の釣り合う価値。またその中身)です。漢字の部首は『貝・かい』、意味は『中身』、『性質』、『生まれるつきの』、『中身をつきつめる』、『質す』、『釣り合う値打ち』です。
音読みは呉音が『シチ』、漢音が『シツ』です。持ち物の価値に似合うお金を貸してくれるところを質屋(シチや)、問い質すことを質問(シツモン)、生まれ持った中身を性質(セイシツ)、飾り気のない生まれたままのの性質を質朴(シツボク)といいます。
呉音の『チ』韻は、漢音で『ツ』韻になることがあります。音読みの呉音、漢音については『呉音と漢音』21 もご覧ください。
質(シチ・シツ)は小学校5年生で習う漢字 です。
『躓(チ)』zhìは、足が物(質)につかえて躓(つまず)く様子表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、足(あし)+質(中身のある物)=躓(足が物(質)につかえて躓く。つまずく)です。漢字の部首は『足・あしへん』、意味は『躓(つまず)く』、『失敗する』です。
音読みは呉音・漢音ともに『チ』です。訓読みが『躓(つまず)く』です。躓いて仆(たお)れることを躓仆(チフ)といいます。
『漢字の覚え方 質』も御覧ください。
『躓(つまず)く』は『蹉(つまず)く』とも書きます。差に『でこぼこ』の意味があり、足が『でこぼこ』にとられて蹉(つまず)くのです。詳しくは『漢字の覚え方 左』をご覧ください。
躓(チ)は常用漢字ではありません。
『匠(ショウ)』jiàngは、差し金(定規)と刃物で匠(たくみ)を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、匚(定規)+斤(刃物)=匠(差し金(定規)と刃物。匠(たくみ)。大工)です。漢字の部首は『匚・はこがまえ』、意味は『匠(たくみ)』、『大工』、『技術の巧みな人』です。
音読みは呉音が『ゾウ』、漢音が『ショウ』、訓読みは『匠(たくみ)』です。学問・芸術などの先生・芸人の尊称を師匠(シショウ)、大工・土木工事の技術者を匠人(ショウジン)、巧みなアイデアを意匠(イショウ)といいます。
大変良い意味の漢字で、『たくみ』、『なる』と名前に使われます。
『匠(たくみ)』は『巧(たく)み』とも書きます。詳しくは『漢字の覚え方 丂』をご覧ください。
匠(ショウ・たくみ)は中学生 で習う常用漢字です。
『断(ダン)』duànは、糸をずばりと切る様子を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、乚(切る)+糸×4+斤(おの)=斷・断(斧でずばりと切る。断つ。たつ)です。漢字の部首は『斤・おの』、意味は『断(た)つ』、『ずばりと切る』。『断(た)つ』から転じた、『絶える』、『定める』、『断(ことわ)る』です。正字は『斷』、ですが省略形の『断』が常用漢字体として登録されています。『断』を使って下さい。
音読みは呉音が『ダン』、漢音が『タン』、訓読みは『断(た)つ』、『断(ことわ)る』です。ずばりと切ることを切断(セツダン)、ずばりと判断することを断定(ダンテイ)、続いていたことを断ちきることを断絶(ダンゼツ)といいます。
思い切りの良いはっきりとした漢字で『さだ』、『さだむ』、『たけし』、『とう』と名前に使われます。
断(ダン)は小学校5年生で習う漢字です。
『析(セキ)』xīは、斤(おの)でこまかく木を割る様子を表す会意文字です。転じて複雑なことを細かく分けて明らかにすることを表します。漢字の足し算で覚えるならば、木+斤(おの)=析(斤(おの)でこまかく木を割る。さく)です。漢字の部首は『木・きへん』、意味は『さく』、『くだく』、『分析する』です。
音読みは呉音が『シャク』、漢音が『セキ』です。薪(たきぎ)を割ることを析薪(セキシン)、複雑なことを細かく分けて明らかにすることを分析(ブンセキ)、死人の骨をくだくことを析骸(セキガイ)といいます。
呉音の『シャク』は、漢音で『セキ』になることがあります。音読みの呉音、漢音については『呉音と漢音』⑯ もご覧ください。
析(セキ)は中学生 で習う常用漢字です。
『斥(セキ)』chìは、斤(おの)で逆方向に切り込みを入れる様子・たたき割る様子を表す会意文字です。転じてしりぞけること、ひらくことを表します。漢字の足し算で覚えるならば、斤(おの)+丶=斥(斤(おの)逆方向に切り込みを入れる。しりぞける。ひらく)です。漢字の部首は『斤・おの』、意味は『斥(しりぞ)ける』、『さける』、『ひらく』、『様子をみる』です。
音読みは呉音が『シャク』、漢音が『セキ』です。訓読みは『斥(しりぞ)ける』です。受け入れずにしりぞけることを排斥(ハイセキ)、荒れた土地を切り開くことを斥地(セキチ)、ひそかに様子を見に行くのを斥候(セッコウ)といいます。
斥(セキ)は中学生 で習う常用漢字です。
『訴(ソ)』sùは、逆らって言う行動を表す会意文字です。漢字の足し算では、言(言葉)+斥(逆に切り込みを入れる)=訴(逆らって言う。訴える。うったえる)です。漢字の部首は『言・ごんべん』、意味は『訴(うった)える』です。
音読みは呉音が『ス』、漢音が『ソ』、訓読みは『訴(うった)える』です。公的(訟)に訴えることを訴訟(ソショウ)、君主に直接訴えることを直訴(ジキソ)、訴える書状を訴状(ソジョウ)といいます。
訴(ソ)は中学生 で習う常用漢字です。
『所(ショ)』suǒは、木を切る所を表す会意文字です。転じて場所、地位、施設などを表します。漢字の足し算で覚えるならば、戸(入口・家・場所)+斤(おの)=所(木を切る所。~すると所。地位)です。漢字の部首は『戸・とだれ』、意味は『場所』、『所(ところ)』、『施設』です。
音読みは呉音が『ショ』、漢音が『ソ』、訓読みは『所(ところ)』です。近いところで近所(キンジョ)、研究する施設を研究所(ケンキュウジョ)、良いところを長所(チョウショ)、見るべきところを見所(みどころ)、そう謂われるところを所謂(いわゆる)、希望するものを所望(ショモウ)といいます。
所(ショ)は小学校3年生で習う漢字です。
大変重要な意味の大切な漢字で、『ところ』、『と』、『のぶ』と名前に使われます。
斤(キン・おの)を使った漢字に兵(ヘイ)があります。
『兵(ヒョウ・ヘイ)』bīngは、武器を持った軍人を表す会意文字です。漢字の足し算で覚えるならば、斤(おの・武器)+一+ハ(人間)=兵(武器を持った軍事。兵。つわもの)です。漢字の部首は『八・はち』、漢字の意味は『兵・軍人』、『戦闘・軍事』です。
音読みは呉音が『ヒョウ』、漢音が『ヘイ』、訓読みに常用外の『兵(つわもの)』があります。軍隊の食糧を兵糧(ヒョウロウ)、兵士を隊に組織したものを兵隊(ヘイタイ)、軍事に用いる機材を兵器(ヘイキ)といいます。
呉音が『ヒョウ』は漢音の『ヘイ』に変わることがあります。呉音と漢音の関係については『呉音と漢音』⑮もご覧ください。
兵(ヒョウ・ヘイ)は小学校4年生で習う漢字です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-bcbb.html
『漢字の覚え方 斤』 斤 近 欣 祈 匠 質 断 析 斥 訴 所 兵
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.きんりょう( )57kg。
2.このえ( )兵。
3.きんじょ( )の付き合い。
4.きんき( )雀躍
5.必勝 きがん( )。
6.先生に しつもん( )する。
7.生まれもった せいしつ( )。
8.武道の ししょう( )。
9.ロープを せつだん( )する。
10.原因を だんてい( )する。
11.成分の ぶんせき( )。
12.粗悪製品の はいせき( )。
13.上司に じきそ( )する。
14.水産 けんきゅうじょ( )。
15.氏名・年齢・じゅうしょ( )。
解説です。基本の漢字は斤、近いは辶を足して近、欣ぶは欠(あくび)を足して欣、祈るは示(しめすへん)を足して祈、匠(たくみ)は匚(はこがまえ)を足して匠、質(ただ)すは斤×2に貝で質、断(た)つは乚と米を足してに断、分析は木を足して析、斥(しりぞ)けるは丶を足して斥、訴(うった)えるは更に言を足して訴、所(ところ)は戸(とだれ)を足して所です。
解答です。斤量、近衛、近所、欣喜、祈願、質問、性質、師匠、切断、断定、分析、排斥、直訴、研究所、住所。
少し漢字の読み方の話をします。漢字の読み方には音(オン)読みと訓(くん)読みがあります。音読みには、漢字を輸入した時期により違いがあります。六朝時代の江南地方の読み・呉音(ゴオン)、唐の長安の読み・漢音(カンオン)、鎌倉時代に輸入した読み・唐宋音(トウソウオン)、日本で慣用的に読まれる慣用音(カンヨウオン)があります。訓読みは大和言葉(やまとことば)に合わせた読み方です。
音読みの呉音、漢音については『呉音と漢音』もご覧ください。
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