漢字の覚え方 亡
漢字には『単語家族』と呼ばれる漢字の仲間があります。今日は『亡(ボウ)』wáng、wúという字を中心とした『単語家族』を説明します。この『単語家族』には亡、忘、忙、望、妄、盲、茫、罔、網、魎、荒、慌という漢字が含まれます。
『単語家族』の漢字は足し算で表わす事が出来るので、『単語家族』ごとにまとめて漢字を覚えると便利です。亡に何を足したら忘、忙、望、妄、盲、茫、罔、網、荒、慌になるのかを考えていきます。望は小学校4年生、亡、忘は6年生、忙、妄、盲は中学校で習う常用漢字です。学校に関係なく一緒に覚えましょう。
基本の漢字である『亡(モウ・ボウ)』wáng、wúは、人が死んだことを表す会意文字(カイイモジ)です。古い字体の篆文(テンブン)を見てください。人(人間)を乚(囲い)で隠しています。漢字の足し算では、人(人間)+乚(囲い)=亡(人間が隠れる。なくなる。亡びる)です。漢字の部首は『亠・なべぶた』、漢字の意味は『亡びる(ほろびる)』、『逃げる』、『亡い(ない)』です。
音読みは二通りあります。『亡びる(ほろびる)』wángの意味では呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』、『亡い(ない)』wúの意味では呉音が『ム』、漢音が『ブ』です。訓読みは『亡い(ない)』と『亡びる(ほろびる)』です。頼りにならないものを亡頼(ブライ・ムライ)、他国へ逃げることを亡命(ボウメイ)、死んだ人を亡者(モウジャ)、生きるるか死ぬかを存亡(ソンボウ)といいます。
『亡(モウ・ボウ)』は小学校6年生で習う漢字です。
音読みには古いに、呉音(ゴオン)と言って最初に漢字を輸入した時の呉(江南)地方の音、漢音(カンオン)と言って遣唐使が持ち帰った唐時代の長安の音、鎌倉・室町時代入ってきた唐宋音(トウソウオン)があります。
中国では音の変化があった事が知られています。mの音が時代とともにb、wの音に変わりました。この発音の変化は呉音と漢音の発音にも影響が見られます。
『亡』の場合、呉音は『モウ』、漢音は『ボウ』です。日本に最初に輸入したときは『モウ』と発音していたのが、時代とともにボウと発音するようになったのです。呉音、漢音どちらの音が残っているのかは中国と日本で違う場合が多く、日本では呉音、漢音とも残ってしまった場合もあって厄介です。
呉音と漢音については『呉音と漢音』もご覧ください。
『忘(ボウ)』wàngは、忘れる様子を表した形声文字です。漢字の足し算では、亡(ない)+心=忘(心がない・忘れる)です。漢字の部首は『心・こころ』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』、訓読みは『忘(わす)れる』です。忘れ去ることを忘却(ボウキャク)、年末に一年の苦労を忘れることを忘年(ボウネン)、人からの恩を忘れることを忘恩(ボウオン)といいますです。
『忘(ボウ)』は小学校6年生で習う漢字です
『忙(ボウ)』mángは、忙しい様子を表すを形声文字です。漢字の足し算では、忄(心)+亡(なくなる)=忙(心がなくなるほど忙しい)です。漢字の部首は『忄・りっしんべん』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』です。訓読みは『忙しい(いそがしい)』です。多いに忙しいのが多忙(タボウ)、忙しい最中を忙中(ボウチュウ)といいます。
『忙(ボウ)』は中学校で習う常用漢字です。
『忙(いそが)しい』の反対の漢字は『閑(ひま)』や『暇(ひま)』です。閑(カン)は間(カン)、簡(カン)と同じ単語家族です。『漢字の覚え方 間』、『漢字の覚え方 叚』もご覧ください。
『妄(モウ・ボウ)』wàngは、みだりな様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、女+亡(なくなる)=妄(男性が女性に心を奪われる。みだり)です。漢字の部首は『女・おんな』、意味は『みだり』、『でたらめに』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』です。みだりに想うことを妄想(モウソウ)、でたらめな言葉を妄言(モウゲン・ボウゲン)といいます。
『妄(モウ・ボウ)』は中学校で習う常用漢字です。
『盲(モウ)』mángは、 目が見えない様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、亡(ない)+目=盲(目が見えない)です。漢字の部首は『目・め』です。
音読みは呉音の『ミョウ』は使わず、漢音の『モウ』を使います。眼の不自由な方の役に立って大事なパートナーになる犬を盲導犬(モウドウケン)といいます。よく考えずに人に従うことを盲従(モウジュウ)、うっかり見落とす点を盲点(モウテン)といいます。
『盲(モウ)』は中学校で習う常用漢字です。
『望(モウ・ボウ)』wàngは、 遠くの月を待ち望む様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、亡(ない)+月+壬(人が伸びあがる)=望(遠くの月を待ち望む)です。漢字の部首(月・つき)、漢字の意味は『遠方を見る』、『待ち望む』、『良い評判』、『満月』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』です。訓読みは『望(のぞ)む』、『望(もち)』です。待ち望むことを待望(タイボウ)、本当に望んでいることを本望(ホンモウ)、評判の良い人格を人望(ジンボウ)、満月を望月(ボウゲツ・もちづき)といいます。
非常に縁起の良い漢字で、『望月』、『望岡』、『望野』と人名、地名に使われるほか、『のぞみ』、『のぞむ』、『み』、『もち』と名前に使われます。
『望(モウ・ボウ)』は小学校4年生で習う漢字です。
漢字の世界では『みる』について、ニュアンスの違いがあります。
見(み)る 目立つ。目に止まる。現れる。見(ケン)http://bit.ly/ZCbIEZ
視(み)る 真っ直ぐ視る。注意して視る。視(シ)http://bit.ly/1Vps6QQ
看(み)る 手をかざして看る。よくみる。看(カン)http://bit.ly/1Z5TbdM
診(み)る 細かいところまですみずみまでみる。診(シン)http://bit.ly/1ygC0wK
察(み)る すみずみまでみる。察(サツ)http://bit.ly/1zwPD77
覧(み)る 高い所から下を覧る。覧(ラン)http://bit.ly/25ApacQ
臨(のぞ)む 高い所から下を臨む。臨(リン)http://bit.ly/1WvVxot
監(み)る 上から下のものをみて、みさだめる。監(カン)http://bit.ly/25ApacQ
観(み)る 多くのものを比べて観る。批評する。観(カン)http://bit.ly/11kw1b1
眺(なが)める 右に左にと広く見渡す。眺(チョウ)http://bit.ly/2t44mNH
望(のぞ)む 遠くの見えにくいものをもとめみる。望(ボウ)http://bit.ly/1v84fty
『茫(ボウ)』mángは、 草原で茫然(ボウゼン)と漂(ただよ)う様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、艹(草原)+氵(水に漂う)+亡=茫(茫然と漂う)です。漢字の部首は『艹・くさかんむり』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』です。平原で茫然としている様子を茫然(ボウゼン)といいます。『茫』は常用漢字から外れています。
呆然 (ボウゼン)とは呆(あき)れた様子をいいます。
『茫(ボウ)』は常用漢字から外れています。
『罔(モウ)』wǎngは、 罔(あみ)を被せる様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、网(あみ)+亡(見えなくする)=罔(網を使って見えなくする。網で捕らえる。くらい)です。漢字の部首は『网・あみがしら』、漢字の意味は『網(あみ)』、『網で捕らえる』、『くらい』です。糸を足した網(あみ)の方が使われるため、この漢字は使われません。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』、訓読みが『罔(あみ)』、『罔(くらい)』です。魚を捕る罔を漁罔(ギョモウ)といいます。この漢字を使った有名な文章に『論語』の「学ビテ而思ハ不レバ即チ罔(くら)シ」(学んでも考えなければ物事に暗い)というのがあります。
『罔(モウ)』は常用漢字から外れています。
『網(モウ)』wǎngは、 網(あみ)を表す形声文字です。漢字の足し算では、糸+罔(見えなくする)=網(糸製の網。あみ)です。漢字の部首は『糸・いとへん』、漢字の意味は『網(あみ)』、『網で捕らえる』です。『あみ』と言えば、糸を足した『網(あみ)』の方を使います。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』、訓読みが『網(あみ)』です。魚を捕る網を漁網(ギョモウ)、水中に引き立てる固定式の網を建網(たてあみ)、金属製の網を金網(かなあみ)といいます。
『網(モウ・あみ)』は中学校で習う常用漢字です。
我が国では生産性に富む非常に重要な漢字で『網川』、『網谷』、『大網』、『徳網』、『網走』、『曳網』と地名・苗字に良く使われる漢字です。
『魍(モウ)』wǎngは、 罔(あみ)を被せて見えなくする・人を惑わす化け物を表す形声文字です。漢字の足し算では、鬼(化け物)+罔(網を使って見えなくする)=魍(網を使って見えなくする・人を惑わす化け物)です。漢字の部首は『鬼・おに、きにょう』、漢字の意味は『人を惑わす化け物』です。
音読みは呉音が『モウ』、漢音が『ボウ』です。山・水・木・石などの精気から生じる怪物で、人を化かすと言われています。様々な化け物を魑魅魍魎(チミモウリョウ)といいます。魑魅が山の妖怪、魍魎が川の妖怪とも説明されています。
『魍(モウ)』は中学校で習う常用漢字から外れています。
魑(チ)は『漢字の覚え方 离』 http://bit.ly/2iAAGmXをご覧ください。
魅(ミ)は 『漢字の覚え方 未』 http://bit.ly/1CD39q4 をご覧ください。
魍(モウ)は『漢字の覚え方 亡』 http://bit.ly/1v84fty をご覧ください。
魎(リョウ)は『漢字の覚え方 両』 http://bit.ly/1YGsCgb をご覧ください。
『虻(ボウ・あぶ)』méngは、小さい虫の虻(あぶ)を表す形声文字です。漢字の足し算では、虫(むし)+亡(見えにくい)=虻(小さくて見えにくい虫。あぶ)です。部首は『虫』、漢字の意味は『虻(あぶ)』です。牛や馬などにたかり血を吸います。実際はそれほど小さい虫ではありませんが、牛に比べるとはるかに小さいです。
音読みは呉音が『ミョウ』、漢音が『モウ』、慣用音が『ボウ』で、訓読みが『虻(あぶ)』です。二つのものを得ようとして両方得られないことを虻蜂(あぶはち)取らずといいます。
欲を出し過ぎると失敗するという譬(たと)えです。
虻(ボウ・あぶ)は常用漢字から外れています。部首索引 虫(むし) も御覧ください。
『荒(コウ)』huāngは、荒れ果てた土地を表す形声文字です(藤堂)。漢字の成り立ちとしては荒れた川・むなしい川と解釈します。漢字の足し算では、艹(農地・土地)+亡(ない)+川=荒(荒れ果てて、実りのない荒地。作物が育たない)です。漢字の部首は『艹・くさかんむり』、漢字の意味は『荒れた土地』、『作物が育たない』、『荒々しい』、『大変大きい』です。川の部分を抜け落ちた髪と解釈し、『荒(コウ)』は放置された死体とする説(白川)もあります。漢字の意味は同じです。
音読みは呉音・漢音ともに『コウ』、訓読みが『荒(あら)い』、『荒(あ)れる』、『荒(あ)らす』です。mang、wangの音が変化してhuに変わったので読み方が違います。荒れた土地・非常に広い土地を荒野(コウヤ・あらの)、作物の育たない年を荒年(コウネン)、とてつもなく大きい事を荒唐(コウトウ)といいます。
危険を示したり、大変大きい様子を表す非常に重要な漢字で、『荒川』、『荒木』、『荒』、『荒舘』、『荒立』、『荒野』、『荒田』と地名・苗字に使われる漢字です。
『荒(コウ)』は中学校で習う常用漢字です。
『慌(コウ)』huāngは、慌てる様子を表す形声文字です。漢字の足し算では、忄(心)+荒(荒れる)=慌(荒れた心。慌てる。おそれる)です。漢字の部首は『忄・りししんべん』、漢字の意味は『慌てる』、『恐れる』、『途方にくれる』です。
音読みは呉音・漢音ともに『コウ』、訓読みが『慌(あわ)てる』、『慌(あわ)ただしい』です。恐れ慌てることを恐慌(キョウコウ)、途方に暮れてぼんやり(惚・コツ)する状態を慌惚(コウコツ)といいます。
慌惚(コウコツ)は、恍惚(コウコツ)とも書きます。光(ひかり)http://bit.ly/1Xsc1Mt でぼんやり(惚・コツ)http://bit.ly/1WobCsLする様子を表します。
『慌(コウ)』は中学校で習う常用漢字です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-8d94.html
『漢字の覚え方 亡』 亡 忙 忘 妄 虻 望 盲 網 茫 荒 慌
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.他国へ ぼうめい( )する。
2.権力の もうじゃ( )。
3.ぼうきゃく( )の彼方。
4.ぼうねん( )会。
5.師走の たぼう( )。
6.誇大 もうそう( )。
7.もうてん( )に気なっていた。
8.じんぼう( )が厚い。
9.もちづき( )とは満月のこと。
10.かなあみ( )を用いる。
11.こうや( )を彷徨(さまよ)う。
12.こうとう( )無稽(むけい)。
13.あわただ( )しい様子。
14.世界大 きょうこう( )。
解説です。基本漢字は亡、忘れる心を足して忘、忙しいは忄(りっしんべん)を足して忙、妄(みだ)りは女を足して妄、盲は目を足して盲、望は月を壬を足して望、網は糸に罔を足して網、荒れるは艹(くさかんむり)と川を足して荒、慌(あわ)てるは忄(りっしんべん)を荒に足して慌です。
解答です。亡命、亡者、忘却、忘年、多忙、妄想、盲点、人望、望月、金網、荒野、荒唐、慌しい、恐慌。
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