漢字の覚え方 它・也
漢字には発音・意・構造上の仲間があります。今日は它、蛇、也、地、池、他、馳、舵という漢字の仲間について卩前いします。基本の漢字は『它・也(タ)』で、読み方は漢字によって違い『タ』か『チ』か『ヤ』、意味は『へび』、『広い』です。これらの漢字は同じ構成要素を持つので、漢字の足し算で表すことが出来ます。
漢字は足し算で表わす事が出来るものについては、意味を考えて漢字の足し算で覚えると便利です。『它・也』に何を足すとどんな漢字になるのかを考えます。池、地は小学校2年生で習う漢字 、他は小学校3年生で習う漢字、蛇を中学生 で習う常用漢字です。漢字の足し算で一緒に覚えましょう。
『它(タ)』tā、『也(ヤ)』yěは、蛇の頭の映像を漢字にしたものです。どちらも『長くのびた』、『横にのびた』の意味があります。この2字は古くから混同して使用されていたようです。古い字体である篆文(テンブン)も載せておきます。ほぼ同じ字体です。
音読みは呉音・漢音ともに『タ』、訓読みは『它(へび)』です。『它』の漢字が単独で『へび』の意味で使われることはありません。中世では第三人称の代名詞に転用されました。『它』は常用漢字ではありません。
『蛇(ダ・ジャ)』tuō、shéは、虫(むしへん・獣以外の動物)に它(へび)を足した漢字です。漢字の足し算では、虫(むしへん・虫)+它(へび)=蛇(へび)です。漢字の部首は『虫・むしへん』、音読みは呉音が『ジャ』、漢音が『タ』、慣用音が『ダ』で、訓読みは『蛇(へび)』です。『它(へび)』が三人称(かれ・それ)の代名詞に転用されたため、『蛇』の漢字が出来たと言われています。
蛇行(ダコウ)、長蛇(チョウダ)、蛇足(ダソク)、蛇口(ジャぐち)、蛇の目傘(ジャのめがさ)、蛇腹(ジャばら)の蛇です。
★余計なことをすることを蛇足(ダソク)といいます。昔、中国の楚の国で、二人の男が蛇の絵を速く描く競争をしました。速く描けた男が、「足も描ける」と言って蛇に足を描いたために失格になり、賞品の酒を飲めなかった。余計なことをすることを蛇足(ダソク)というのはこの故事によります。
★「蛇(ジャ)は寸(スン)にして人を呑む勢いを示す」という成語がありますが、大蛇(ダイジャ)の子は小さい時から、何倍も大きい人を呑む勢いを示すと云う意味で、すぐれた人は幼いころから凡人とは違っている例えに使われます。
★余計なことをする例えを、「藪(やぶ)を突いて蛇を出す」といいます。省略して「やぶへび」と云い、好く使う言葉です。
★「じゃんけん」の由来の一つに「蛇拳」説があります。蛇(へび)は蛙(かえる)を喰い、蛙は蛞蝓(なめくじ)を喰い、蛞蝓は蛇を腐らせるというのです。
★この「三すくみ趣向」は、江戸時代の読本『自来也説話』(じらいやものがたり)に、蝦蟇(がま)の妖術を使う児雷也(じらいや)、蛞蝓の妖術を使う綱手(つなで)、宿敵で大蛇の大蛇丸(おろちまる)として取り入れられています。近年では漫画の『ナルト』で有名ですが。
『巳(シ・へび・み)』は旧暦の四月、時間は午前十時、方角は南南東、動物では蛇(へび)にあてられています。已(イ・すでに・やむ)に通じ、草木の成長が極限に達する状態とされれいます。
中国を中心とした東アジアの世界では、子 丑 寅 卯 辰 巳 午 未 申 酉 戌 亥の十二支を使って暦、時刻、方角を表しました。数字でもなんでもない漢字の順番を覚えるの大変です。そこで、神様に新年の挨拶に来た十二種類の動物になぞらえて、十二支を宛てて覚えたのです。
ちなみに一番目は牛の背中に乗ってきた鼠(子・ねずみ)、十二番目は勢いよく走ってきて、神様の前を通り越してしまった猪(亥・いのしし)です。
『蛇(ダ・ジャ)』は中学生 で習う常用漢字です。『部首索引 虫(むし)』も御覧ください。
『也(ヤ)』yěは、蛇(へび)の原字です。音読みは呉音・漢音ともに『ヤ』、訓読みは『也(なり)』です。本来は『也(ヤ)』は『へび』や『さそり』の意味です。しかし『ヤ』yeという断定、強調の言葉を表す漢字として使われることになりました。漢字の意味に関係なく音だけ使われる事を仮借(カシャ)といいます。『也』は本来の(へび)の意味で使われることはありません。ヘビを表す時は『蛇』を使います。『也』は常用漢字ではありませんが、人名漢字です。名前の最後に『也』を使う人が多いです。断定の漢字で、音も良く、格好良い漢字の一つです。
『也(ヤ)』の漢字の成り立ちについては諸説あります。漢字の先祖は一通りではないことがあるからです。最古の辞書である『説文解字』には女陰であるとしていますが、使用例がなく、現在の漢字の直接の先祖ではないようです。さらに古い字体の金文では水さしの形だといわれています。現在の漢字(みずさし)では『匜(イ・みずさし・はんぞう)』yiがこれにあたります。
平安中期の僧に空也(クウヤ)という人がいました。高校の教科書に載っているはずです。『空である』という事でしょうか。いかにも仏教らしい法号ですね。
『池(チ)』chíは、横に広がった溜め池を示す形声文字です。自然な状態の水を沼、人工的に掘った水たまりを池といいます。漢字の足し算で覚えるならば、氵(さんずい・水)+也(横に広がる)=池(横に広がった水面)です。漢字の部首は『氵・さんずい』です。
音読みは漢音の『チ』が普通で、呉音の『ヂ』と読む事はありません。訓読みは『いけ』です。貯水池(チョスイチ)は水を貯める(たくわえる)池、電池(デンチ)は電気ををためる液状の容器、溜め池(ためいけ)は水を溜(とど)める池、古池(ふるいけ)は古くからある池です。
『池(チ・いけ)』は小学校2年生で習う漢字です。
『地(チ・つち)』dìは、地面の広がりを漢字にした形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、土(つち)+也(横に広がる)=地(平らにのびた大地のこと。地面)です。漢字の部首は『土・つちへん』、意味は『地面』、『もとのまま』、立つ地面から『立場』です。『地』は漢の頃から使われた比較的新しい漢字で、古い書物には『墜(チ)』という漢字が使われています。
音読みは漢音が『チ』、呉音が『ヂ』、『ジ』です。地面(ジメン)、地声(ジごえ)、地元(ジもと)、地主(ジぬし)、土地(トチ)、地上(チジョウ)、地位(チイ)、現地(ゲンチ)、心地(ここチ)の地です。
『地(チ)』は小学校2年生で習う漢字です。
『心地(ここチ)』は常用漢字の付表にある特別な読み方です。『こころチ』とは読まないようにしましょう。戦争に負ける前までは、地面はヂメンでした。『地』は『チ』だからです。現在では発音上の区別がないので『ジ』と書くことになっています。
『他(タ)』taは、『它(タ)』がもとになった漢字です。蛇のいない事を古代「它無き?」(たたり無い?蛇いない?)と聞いていました。他に悪いことが無いかどうかを聞く挨拶として、重要な言葉だったようです。「御機嫌よう」のようなものですね。
やがて也(へび)に人を足した『他』の漢字が出来て、『它』と区別するようになりました。漢字の足し算では、イ(他人)+也(へび)=他(他に悪いことが無いか)です。漢字の部首は『イ・にんべん』です。
音読みは呉音・漢音ともに『タ』、訓読みに『他(ほか)』があります。です。自他(ジタ)、他人(タニン)、他日(タジツ)、排他(ハイタ)、他力(タリキ)、その他(そのタ)、思いの他(おもいのほか)の他です。
『他(タ・ほか)』は小学校3年生で習う漢字です。
『馳(チ)』chíは、馬を走らせる映像を表す形声文字です。漢字の足し算では、馬+也(横に広がる)=馳(馬を広く走らせる)です。漢字の部首は『馬・うまへん』です。
音読みは呉音が『ヂ』・『ジ』、漢音が『チ』、常用外の訓読みに『馳(は)せる』があります。馳走(チソウ)、馳せ参ずる(はせさんずる)の馳です。馳走(チソウ)とは客のために走り回ることです。走り回るような努力をした結果の美味しいものが御馳走(ゴチソウ)です。朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」で説明されていた通りです。
『馳(チ・はせる)』は人名漢字です。
『舵(ダ)』duoは、船の舵を操る映像を漢字にした形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、舟(ふねへん・舟)+也(蛇のように蛇行する)=舵(舟を左右に操る舵)です。漢字の部首は『舟』です。
音読みは呉音が『ダ』、漢音が『タ』、訓読みに『かじ』です。舟の舵を操ることを操舵(ソウダ)といいます。船の『かじ』は 梶(かじ・木の先端)、楫(かじ・水を集める木)とも書きます。
『舵(ダ・かじ)』は常用漢字から外れています。
弛緩(シカン・ゆるむこと)の『弛(シ)』shi、chi(弓が広がる・緩む)も也の仲間の漢字です。漢字の成り立ちは、弓(弓)+也(広い)=弛(ぴんと張った弓が弛む。ゆるむ)です。漢字の部首は『弓・ゆみへん』、意味は『弛(ゆる)む』です。
音読みは呉音・漢音ともに『シ』、慣用音が『チ』、訓読みは『弛(ゆる)む』です。ゆるむことを弛緩(シカン)、弛むことと張ることを弛張(シチョウ)といいます。
弛(ゆる)むの反対は張(は)るです。『張(チョウ)』zhangは弓に長い糸を張るから成り立つ漢字http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/post-70e1.html です。
『弛(シ・ゆるむ)』は常用漢字から外れています。
它の仲間の漢字には、鉈(シャ・ジャ・なた=広い刃)、駝(ダ=背中の曲がった馬・駱駝)などの漢字もあります。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-737e.html
『漢字の覚え方 它・也』 它 蛇 也 地 池 他 馳 弛 舵
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.ちょうだ( )の列。
2.だそく ( )とは余計なこと。
3.ふるいけ( )の蛙。
4.アルカリ でんち ( )。
5.議員の ちい( )にこだわる。
6.大空と だいち ( )。
7.たりき ( )本願。
8.たにん( )の振りをする。
9.後輩に ごちそう( )する。
10.船の かじ ( )。
11.筋肉 しかん( )剤。
解説です。基本の漢字は它・也、へびには虫を足して蛇、池は氵(さんずい)を足して池、大地は土を足して地、他人はイ(にんべん)を足して他、馳(は)せるは馬を足して馳、舵(かじ)は它に舟を足して舵、弛(ゆる)むは弓(ゆみへん)に也を足して弛です。
解答です。長蛇、蛇足、古池、電池、地位、大地、他力、他人、御馳走、舵、梶、楫、弛緩。今日はこの辺で終わりにします。
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