漢字の覚え方 古
漢字には『単語家族』と呼ばれる漢字の仲間があります。今日は古、固、個、箇、故、枯、苦、居、裾、据、鋸、胡、湖という『単語家族』について説明します。基本の漢字は『古』で、読み方は『コ』、意味は『古い』、『固い』です。
『単語家族』の漢字は足し算で表わす事が出来るので、『単語家族』ごとにまとめて漢字を覚えると便利です。『古』に何を足すとどんな漢字になるのかを考えます。小学校2年で古、3年で苦、湖、4年で固、5年で個、故、居を習い、中学校で箇、枯、裾、据を習います。学校、学年に関係なくまとめて覚えてしまいましょう。
『古(コ)』gǔは、祖先の頭蓋骨(ズガイコツ)に祈る様子を映像を漢字にした象形文字といわれています(藤堂)。『ふるい』、『かたい』、『むかし』、『祈る』の意味があります。漢字の部首は『口』です。
また、『古』gǔは、頭蓋骨ではなく、『干』というたてと『口』(サイ)という祈器を用いて祝詞を守る様子を表す会意文字(白川)とも言われています。意味は。『ふるい』、『かたい』、『むかし』、『祈る』で同じです。
漢字の出発点は占ないから出ているので、祈る、神事に関する漢字が多いのです。
映像ではこんな感じです。
音読みは呉音の『ク』は使わず、漢音の『コ』を使います。訓読みは『古(ふる)い』です。古典(コテン)、古式(コシキ)、古風(コフウ)、中古(チュウコ)、古本(ふるほん)、古池(ふるいけ)の古です。
『古(コ・ふるい)』は小学校2年生で習う漢字です。
呉音の『ク』は漢音では『コ』になることがあります。音読みの呉音、漢音については呉音と漢音 もご覧ください。
『固(コ)』gùは、固める様子を漢字にした形声文字です(藤堂)。漢字の足し算では、古(ふるい・かたい)+□(くにがまえ・囲う)=固(周りを固める)です。漢字の部首は『□・くにがまえ』です。会意文字とする説(白川)もあります。
音読みは呉音が『ク』、漢音が『コ』です。訓読みは『固い(かたい)』、『固める(かためる)』、『固まる(かたまる)』です。 固形(コケイ)、固体(コタイ)、固定(コテイ)、断固(ダンコ)、頑固(ガンコ)、確固(カッコ)の固です。
『固(コ・かたい)』は小学校4年生で習う漢字です。
『錮(コ)』gùは、罪人を閉じ込める様子を漢字にした形声文字です。漢字の足し算では、金(金属)+固(周りを固める・囲う)=錮(罪人を閉じ込める)です。漢字の部首は『金・かねへん』です。漢字の意味は『錮(ふさ)ぐ』です。
音読みは呉音が『ク』、漢音が『コ』です。訓読みは常用外の読み方に『錮(ふさ)ぐ』があります。罪人を禁じて閉じ込めることを禁錮(キンコ)・禁固(キンコ)といいます。『錮』は中学校で習う常用漢字です。
『錮』は平成22年度から新たに常用漢字(一般生活で必要な漢字。中学校までに習う漢字)に登録されました。そのため禁錮(キンコ)は禁固(キンコ)と書く方が多かったです。
『個(コ)』gè gěは、一つの固いものを示す形声文字です。漢字の足し算では、イ(にんべん・人)+固(固いもの)=個(一人一人の個人)です。漢字の部首は『イ・にんべん』です。一人を指しますが、固いものを数える言葉としても使います。
音読みは慣用音の『コ』が普通です。漢音の『ケ』と読むことはありません。個人(コジン)、個性(コセイ)、個別(コベツ)、個室(コシツ)、個数(コスウ)の個です。『個』はもともと『箇』と同じ漢字でした。古い書物には見られない漢字で、後から出来た漢字です。一個と一箇は同じ意味です。
『個(コ)』は小学校5年生で習う漢字です。
『箇(カ)』gè は、竹で出来た名札・番号札を示す映像を表す形声文字です。漢字の足し算では、竹+固(かたいもの)=箇(固いものを数える番号札)です。漢字の部首は『竹・たけかんむり』です。
物を数える記号である『ヶ』は漢字の『箇(カ)』からきています。『箇(カ)』と書くのは字画が多くて大変なので、『ヶ』と書いていたのが定着したのです。
音読みは呉音・漢音の『カ』が普通です。唐宋音の『コ』と読むこともあります。箇条(カジョウ)、箇所(カショ)、一箇(イッコ)の箇です。『箇』から人を表す場合の『個』が分けられ、固い物を数える時も『個』で数える場合が多くなりました。
『箇(カ)』は中学校で習う常用漢字です。
『涸(コ)』heは、水が涸れる様子を示す形声文字です。漢字の足し算では、氵(水)+固(固くなる)=涸(水がなくなって固くなる。涸れる。かれる)です。漢字の部首は『氵・さんずい』です。漢字の意味は『涸(か)れる』です。
音読みは呉音が『ガク』、漢音が『カク』で慣用音の『コ』が普通です。訓読みは『涸(か)れる』です。水が涸れて干上がること・咽喉が渇くことを涸渇・枯渇(コカツ)といいます。
『涸(コ)』は常用漢字から外れており、『涸(か)れる』は木が『枯(か)れる』の『枯(か)れる』で代用するのが普通です。
『故(コ)』guは、古いに関連した事を示す形声文字です。漢字の足し算では、古(ふるい・祈る)+攵(ぼくづくり・動作、鞭打つ)=故(古いに関連した事。以前の。もとの)です。部首は『攵・ぼくづくり』、意味は『以前の』、『もとの』、『死亡する』、『さしさわりのある』、『わざと』です。
『さしさわりのある』、『わざと』は『古(いのる)』に『攵(鞭打つ)』で祖先に対する祈りを妨害する事に由来されていると言われています。
音読みは『コ』、常用外の訓読みに『ゆえ』があります。もとの郷を故郷(コキョウ・ふるさと)、以前の出来事を故事(コジ)、死亡した人を故人(コジン)、さしさわりのある出来事を事故(ジコ)、わざとすることを故意(コイ)といいます。故事成語には「蛇足(ダソク)」、「矛盾(ムジュン)」、「杞憂(キユウ)」など有名なものが多いです。
『故(コ・ゆえ)』は小学校5年生で習う漢字です。
『枯(コ)』kuは、枯れた樹木の映像を表す形声文字です。漢字の足し算では、木(きへん・樹木)+古(古い)=枯(枯れた木)です。部首は『木』、意味は『枯れる(かれる)』、『枯らす(からす)』です。枯れるから転じて『おちぶれる』の意味もあります。
音読みは呉音が『ク』、漢音が『コ』です。訓読みは『枯(か)れる』、『枯(から)す』です。枯渇(コカツ)、枯死(コシ)、栄枯(エイコ)、枯木(コボク・かれき)の枯です。
『枯(コ・かれる)』は中学校で常用漢字です。
『姑(コ)』gūは、年長の女性・夫の母親を表す形声文字です。漢字の足し算では、女(女性)+古(年長の・古い)=姑(年長の女性。夫の母親。しゅうとめ)です。漢字の部首は『女・おんな』、意味は『姑(しゅうとめ)』、『そのままにする』です。保守的な母親から転じて『しばらく』、『そのまま』の意味にも使われるようになりました。
音読みは呉音が『ク』、漢音が『コ』、訓読みが『姑(しゅうとめ)』です。夫の父母を姑舅(コキュウ)、女性と子供・そのままにすることを姑息(コソク)といいます。
姑(コ・しゅうとめ)は中学校で習う常用漢字から外れています。
『苦(ク)』kǔは、枯れている植物をなめる様子を漢字にした形声文字です。漢字の足し算では、艸・艹(くさかんむり・植物)+古(古い)=苦(古い植物で苦い)です。漢字の部首は『艸・艹・くさかんむり』です。
音読みは呉音の『ク』が普通で、漢音が『コ』は使いません。訓読みは『苦(くる)しい』、『苦(にが)い』です。苦情(クジョウ)、苦痛(クツウ)、苦労(クロウ)、苦笑(クショウ)、苦手(にがて)、苦味(にがみ)の苦です。
『苦(ク・くるしい・にがい)』は小学校3年生で習う漢字です。
『居(キョ)』jūは、尻をおろして、腰を落ち着かせる様子を示す形声文字です(藤堂)。漢字の足し算では、尸(かばね・尻)+古=居(尻をおろす。いる)です。部首は『尸・かばね』です。本字を凥(キョ)として几(キ)に従う会意文字とする説(藤堂・白川)もあります。
音読みは、呉音が『コ』で、漢音の『キョ』が普通です。訓読みは『居(い)る』、『居(お)る』です。住居(ジュウキョ)、新居(シンキョ)、隠居(インキョ)、皇居(コウキョ)、居士(コジ)、居候(いそうろう)の居です。
『居(キョ・おる)』は小学校5年生で習う漢字 です。
『裾(キョ)』juは、衣服の裾を示す形声文字です。漢字の足し算では、衤(ころもへん・衣服)+居(尻を下ろす)=裾(衣服の尻を下ろす部分。すそ)です。漢字の部首は『衤・ころもへん』、意味は『すそ』です。
音読みは、呉音が『コ』で、漢音の『キョ』が普通です。訓読みが『すそ』です。山裾(やますそ)、裾野(すその)の裾です。『裾』は平成22年に追加された常用漢字で中学校で習う漢字です。基本漢字の『古』、『居』さえ押さえておけば漢字は足し算なので、常用漢字がいくら増えても大丈夫です。
『居(キョ)』の漢字仲間はその他に、据(す)えるの『据(キョ)』ju、蹲踞(ソンキョ)の『踞(キョ)』ju、鋸(のこぎり)の『鋸(キョ)』juがあります。『据(キョ)』は手で据(す)える、『踞(キョ)』は足で腰をおろす、『鋸(キョ)』は据えたものを金属で切るの意味です。『据』は中学校で習う常用漢字です。
『胡(コ)』huは、ペリカンや牛の顎(あご)の下の固い部分を示す形声文字です。漢字の足し算では、古(かたい)+月(にくづき・身体の部分)=胡(顎の下の部分。)です。部首は『月・にくづき』です。『胡(コ)』は顎髭(鬍・あごひげ)の長い人々で西アジアの遊牧民を指すともいわれています。
音読みは呉音が『ゴ』、漢音が『コ』、唐宋音が『ウ』です。訓読みは『えびす』です。。胡麻(ゴマ)、胡椒(コショウ)、五胡(ゴコ)、胡地(コチ)、胡散(ウサン)の胡です。『胡』は人名漢字です。胡坐と書いて(あぐら)と読む特別な読み方もあります。五胡とは(匈奴・鮮卑・羯・氐・羌)の古代の中国北方民族のことです。
漢字の読み方の話をしましょう。漢字には中国から輸入したときの読み方音読みと日本古来の読み方訓読みがあります。
音読みには呉音(ゴオン)と言って最初に漢字を輸入した時の呉(江南)地方の音、漢音(カンオン)と言って遣唐使が持ち帰った唐時代の長安の音、鎌倉・室町時代入ってきた唐宋音(トウソウオン)があります。呉音・漢音・唐宋音同じ場合は良いのですが、微妙に違う場合が困ります。
どう微妙に違うかというと、『胡』の場合、呉音は『ゴ』、漢音は『コ』、唐宋音『ウ』と違うのです。つまり現在の中国では『hu』という一通りの読み方が、日本では三通りの発音が残ってしまっているです。仕方がないので胡麻(ゴマ)、胡椒(コショウ)、胡散(ウサン)と区別して覚えて下さい。漢字クイズや漢字検定で出題者が喜びそうな漢字です。
訓読みは日本古来の読み方です。『胡』という漢字は、日本古来の言葉(やまとことば)でいう『えびす』に相当します。そこで『胡』は『えびす』と読むわけです。
『湖(コ)』huは、みずうみを漢字で表した形声文字です。漢字の足し算では、氵(さんずい・水)+胡(顎・あごの下の広い部分)=湖(水がある広い場所)です。漢字の部首は『氵・さんずい』です。
音読みは『コ』、訓読みは『みずうみ』です。です。湖沼(コショウ)、湖水(コスイ)、琵琶湖(ビワコ)、湖岸(コガン)、湖畔(コハン)の湖です。
『湖』は小学校3年生で習う漢字です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-d13f.html
『漢字の覚え方 古』 古 固 個 箇 故 涸 枯 姑 苦 居 据 裾 鋸 踞 胡 湖
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.ふるほん( )を買う。
2.だんこ ( )反対。
3.液体と こたい( )。
4.こじん ( )の尊厳。
5.かじょうがき( )に整理する。
6.交通 じこ( )。
7.こじ ( )成語。
8.かれき( )に花。
9.くつう( )に顔がゆがむ。
10. くじょう ( )の電話。
11. じゅうきょ( )に火災がせまる。
12.隣の 御いんきょ( )。
13. 力士が そんきょ( )する。
14. 山の すその( )。
15. ごま ( )を擂る(する)。
16. こはん( )の旅館。
解説です。古いは古、固いは囗(くにがまえ)で固、固いものを数えるには竹製の番号札で箇、個人はイ(にんべん)で個、木が古いで枯、苦い草で苦、尻を据えるで居、すそは衤で裾、のこぎりは金属で鋸、えびすは胡、みずうみは氵で湖です。
解答です。古本、断固、固体、個人、箇条書き、事故、故事、枯木、枯れ木、苦痛、苦情、住居、隠居、蹲踞、裾野、胡麻、湖畔
少し漢字の成り立ちの話をしましょう。最古の辞書は後漢(西暦100年頃)の許慎(キョシン)の「説文解字(セツモンカイジ)」です。許慎はその中で漢字について六種の原理を説明しています。これを『六書(リクショ)』といいます。六種類のうち四種類は漢字の成り立ちについて、残りの二種類は漢字の使用法についてしるしています。
彼は、漢字(=文字)の成り立ちを、物の形に象(かたど)った『象形』(ショウケイ)、象形文字を基に点を打つことにより示された『指事』(シジ)、文字を組み合わせた『会意』(カイイ)、意味と音・声を示す文字を組み合わせた『形声』(ケイセイ)の四種類に分類しました。
『古』は頭骸骨(ズガイコツ)を象った(かたどった)文字なので『象形文字』、もしくは干と口でを組み合わせた文字なので『会意文字』です。『固』は囗に古、『箇』は竹に固、『個』はイに固、『枯』は木に古、『苦』は艹に古を組み合わせた文字です。『古(ク・コ)』の音・声(音符)含みますから『形声文字』です。
漢字の殆どはこの『形声文字』です。漢字が足し算であるというのは、この漢字の成り立ちに関わっています。『形声文字』は音・声(音読み)が同じなので、音・声(音読み)を基にして漢字の足し算で、漢字を覚えようとしているわけです。
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大変勉強になりました。ありがとうございます。島に住んでいますが島の(島だけではないと思いますが)歴史を調べるためには地名の呼称(音)や漢字の意味についても知る必要を感じ勉強する中、貴殿のWEBを知る事になりました。地名や人名には字源や漢字の意味だけでなくと字形から好んで使われたのもあるのではないかと思っています。十を口の中に入れた田、上に付けた古の字はあるが下に十を付けた漢字はない。その理由があるのか、それとも私が知らないだけであるのか?私は加藤常賢先生の書いた字源辞典が気に入っていますが貴殿のブログは別の意味で大変参考になります。本が出来たらお知らせください。是非、購入したいと思います。では。
投稿: 喜山康三 | 2013年8月15日 (木) 09時45分
コメント有難う御座います。漢字の解釈については、どの時代の漢字に焦点をあてるかによって諸説あるようです。篆文(テンブン)を中心にした体系的な記述・韻の説明は、藤堂明保先生の『漢字源』・『漢字の過去と未来』を参考にさせて頂いてます。甲骨文字・金文のもつ呪術的な解釈には白川静先生の『字統』・『漢字』・『中国古代の文化』を参考にさせて頂いています。
漢字の伝来や常用漢字の解釈については、大島正二先生の『漢字伝来』、高島俊男先生の『漢字と日本人』、日本語については、金田一京助先生の『日本語の変遷』、大野晋先生の『日本語の文法を考える』、新村出先生の『広辞苑』を参考にさせて頂いております。
『田』の中の十については田畑の区切りを表すとされていると思います。『古』の上の十については、頭蓋骨説では冠、祈器説では干を表すとされています。御指摘の通り、下に十のつく漢字は無いように思います。
似た漢字に『早』がありますが、漢字の解釈に諸説あり、別の機会にブログ上で御説明申し上げたいと思います。日本語に関わる事なので人名・地名についても記述を増やしていきたいと考えております。
投稿: 風船 | 2013年8月15日 (木) 10時35分