漢字の覚え方 孚

　漢字には『単語家族』と呼ばれる漢字の仲間があります。今日は孚、浮、俘、孵という『単語家族』について説明します。基本の漢字は『孚』で、読み方は『フ』、意味は『はぐくむ』、『とりこになる』です。

『単語家族』の漢字は足し算で表わす事が出来るので、『単語家族』ごとにまとめて漢字を覚えると便利です。『孚（フ）』に何を足すとどんな漢字になるのかを考えます。浮を中学校で習いますが、孚、俘、孵は常用漢字から外れていますので、義務教育では習いません。ですが、一緒に覚えてしまいましょう。

　『孚（フ）』fúは、親の手と子の映像を漢字にした会意文字です。手を表す漢字は『手』、『ナ』、『ヨ』、『寸』、『爪』と色々ありますが、『孚』に使われている手は爪（爫・ソウ・つめ）です。

漢字の足し算で表すと、爫（つめかんむり・上からの手）＋子（子供）＝孚（子供の面倒をみる。子供をつかむ）です。漢字の部首は『子』です。爫は親鳥の羽、子は雛であるとされています。また、子をつかむで『とりこにする』という意味もあります。

映像ではこんな感じです。

音読みは呉音・漢音ともに『フ』です。訓読みは『孚（はぐく）む』、『まこと』、『さね』があります。孚はそのままで使われることはありませんが、浮、孵の一部分として活躍しています。

『孚（フ）』は常用漢字から外れています。

この漢字を使った有名な方に、熊本出身の儒学者、元田永孚（もとだながさね）さんがいます。

　『浮（フ）』fúは、川に浮かぶ死体を漢字にしたものといわれています。漢字の足し算では、氵（さんずい・水）＋孚（上からつかむ。うつ伏せ）＝浮（うつ伏せになって水に浮く死体）です。漢字の部首は『氵・さんずい』です。漢字の意味は『浮（う）く』、『ただよう』、『はかない』、『浮（う）かれる』、『余りが出る』、『ふと考え付く』です。

漢字は古代の厳しい生活を表わしていて、流れる、沈む、など結構、残酷な映像が元になっていることが多いです。

音読みは呉音が『ブ』、漢音が『フウ』、慣用音が『フ』、訓読みは『浮（う）く』です。浮遊（フユウ）、浮上（フジョウ）、浮力（フリョク）、浮浪（フロウ）、浮雲（フウン・うきぐも）、浮世（うきよ）、浮気（うわき）の浮です。

『浮（フ）』は中学校で習う常用漢字です。

　『俘（フ）』fúは、とりこになった人を表す形声文字です。漢字の足し算では、イ（にんべん・人）＋孚（上からつかむ）＝俘（捕らえられた人）です。部首は『イ・にんべん』、意味は『捕らえられた人』、『とりこ』です。

音読みは呉音・漢音ともに『フ』、訓読みは『とりこ』です、俘虜（フリョ）、俘囚（フシュウ）の俘です。

『俘（フ）』は常用漢字から外れています。

少し漢字の字体の話をしましょう。『浮』と『俘』では『孚』の上の部分のデザイン（書体）が違います。なぜ二種類あるか説明します。上の部分は爫（つめかんむり・上からの手）です。爫は『爪』の字ですから下に広がる様に書くのが漢字の成り立ちからは本来です。これを『明朝体（ミンチョウタイ）』といいます。しかし、書道家の人達は下に狭く書く字体『楷書体（カイショタイ）』を正統としています。筆運び上美しく、流れの中で書けるからです。

日本では戦後、漢字の使用・字体・読み方に制限を設けました。この制限を受けた漢字は当分の間使う漢字で当用漢字といいます。やがて、制限を加えようとする人達が亡くなり始めました。そこで名称も常に使用する漢字として常用漢字と変更し、文字数も現状に合わせて増やす傾向になっています。常用漢字は義務教育で学ぶことになっていて、常用漢字に登録された字体を常用漢字体といいます。

『浮』の常用漢字に登録されている『常用漢字体』は、印刷用の『明朝体（ミンチョウタイ）』を基調に『楷書体（カイショタイ）』を加味したものです。『浮』が正式の字体です。『孚』、『俘』、『孵』、『蜉』は常用漢字から外れているので、明朝体の『孚』、『俘』、『孵』、『蜉』の字体が使えます。もちろん、手書きの場合は『楷書体（カイショタイ）』の字体を使うのが普通です。

　『孵（フ）』fūは、卵をかえすことを表す形声文字です。漢字の足し算では、卵（たまご）＋孚（はぐくむ）＝孵（卵をかえす）です。漢字の部首は『子』です。

音読みは呉音・漢音ともに『フ』、訓読みは『孵（かえ）す』です。孵化（フカ）、孵卵（フラン）の孵です。

『孵（フ）』は常用漢字から外れています。

　『蜉（フ）』fúは、かげろうのことです。漢字の足し算では、虫（むしへん・昆虫）＋孚（うく）＝蜉（浮くように飛ぶ虫）です。部首は『虫・むし』、意味は『かげろう』です。同じく『かげろう』を表す『蝣（ユウ）』と合わせて二字で『蜉蝣』（かげろう・フユウ）として使います。耳で聞いたときに二語の熟語の方が解りやすいからです。

音読みは呉音が『ブ』、漢音が『フウ』、慣用音が『フ』、訓読みは『蜉蝣』（かげろう）です。

　

現在ではカゲロウに蜉蝣の漢字を充てていますが、平安朝では蜻蛉（とんぼ）の漢字を充てていたりしました。江戸時代の学者、新井白石によれば多少混同されていたようです。

藤原道綱（ふじわらみちつな）の母（平安朝の高貴な女性の名前は旦那しか知らない場合が多い）が執筆した「蜻蛉日記（かげろうにっき・かげろうにき）」は、はかなきものとして「かげろふ」とあるので蜻蛉（かげろふ）と読ませていたようです。

蝣は斿の『単語家族』です。『漢字の覚え方 斿』もご覧ください。虫扁の漢字については部首索引 虫(むし) も御覧ください。

『蜉（フ）』は常用漢字から外れています。

乳（ニュウ）については『漢字の覚え方 乙』をご覧ください。

http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-bca6.html

『漢字の覚え方 孚』 孚 浮 俘 孵 蜉

参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。

少し練習しましょう。

1.うわき（　　　）癖。

2.うわ（　）ついた態度。

3.理科で ふりょく（　　　　）を計算する。

4.ふりょ （　　　）日記。

5.鮭の ふか（　　　）事業。

6.はかない虫のたとえ かげろう（　　　）。

7.かげろう（　　　）日記。

解説です。浮くには水に浮くので氵（さんずい）を足して浮、とりこは人なのでイ（にんべん）の俘、卵は孵、虫は虫（むしへん）で蜉です。

解答です。浮気、浮ついた、浮力、俘虜、孵化、蜉蝣、蜻蛉。今日はこの辺で終わりにします。