漢字の覚え方 莫
漢字というのは『単語家族』、『系列漢字』などと呼ばれるグループに分かれています。そのグループは元になるある共通したイメージを持ち、同じような音を持っています。言い換えると漢字グループが幾つも集まって漢字全体を構成しているのです。例えば莫、漠、幕、膜、獏、模、摸、暮、墓、募、慕というのは『莫』という漢字パーツ、『日が沈む』、『見えなくなる』という共通イメージ、『バク・ボ』という共通した音をもった『系列漢字』なのです。
墓(ボ)は小学校5年生 、幕(バク)、暮(ボ)、模(モ)は小学校6年で習う漢字 、中学校で漠(バク)、募(ボ)、慕(ボ)を覚えるようになっています。しかし『系列漢字』は別々に覚えるよりも、学年・学校に関係なく一緒に覚えましょう。漢字の成り立ちからもお薦(すす)めです。
少し音読みの御話をしましょう。音読みには呉音(ゴオン)と言って最初に漢字を輸入した時の呉(江南)地方の音、漢音(カンオン)と言って遣唐使が持ち帰った唐時代の長安の音があります。
呉音・漢音一緒の場合は良いのですが、微妙に違う場合が多いのです。どう微妙に違うかというと、漢音のb音は、呉音ではm音になります。つまり漢音でバク(baku)なら呉音ではマク(maku)、漢音でボ(bo)なら呉音ではモ(mo)と読むわけです。区別して覚える必要はないですが、日本ではバクという漢字は、マクとも読む可能性があり、怪しいなと覚えて下さい。例えば、幕府(バクフ)、幕張(マクハリ)なんかそうです。音読みの呉音、漢音については『呉音と漢音』もご覧ください。
他に例を示すと、免(メン・men)と読む漢字は、ベン(ben)、バン(ban)と読むことがあります。免(メン)、勉(ベン)、挽(バン)、娩(バン)、晩(バン)これは同じ仲間の『単語家族』です。この事を知っていると漢字を覚えるのに役に立ちます。私はBMの怪しい関係と言っています。詳しくは『漢字の覚え方 免』をご覧ください。
今日は『莫(バク・ボ)』mòの説明をします。『莫』という漢字は草原の中に日が沈んでいくことを表しています。
漢字の下の部分の『大』は古い字形では『艸(クサ)』であり、草原の真ん中に太陽が沈む様子を表します。『暮れる』、『見なくなる』、『ない』という意味を持ちます。読みは漢音で『バク・ボ』、呉音で『マク・モ』です。漢字の足し算では、艸・艹(くさ。草原)+日+艸(草原)=莫(草原に日が沈む。見えなくなる)です。漢字の部首は『艸・艹くさかんむり』です。
『莫』は『ない』という意味に多く使われるようになりました。日が沈むの意味にはあまり使われなくなります。そこで、莫に日を足して暮れるを表すようになった漢字が『暮(ボ)』mùです。漢字の足し算では、莫(みえない)+日=暮(日が沈む様子)です。漢字の部首は『日』です。
映像ではこんな感じです。
音読みは漢音の『ボ』が普通、呉音の『モ・ム』は使いません。訓読みは『暮れる(くれる)』です。朝暮(チョウボ)、日暮れ(ひぐれ)の暮です。『暮』は小学校6年で習います。
ちなみに『朝(あさ・チョウ)』zhaoは『艸(くさ)』を上下に分割し、中に『日』を入れて、旁(つくり)に『月』を持ってきたものです。
柿本人麻呂の歌に 「東の 野にかぎろひの 立つ見えてかへり見すれば 月傾きぬ」
とあります。まさに朝の風景です。地平線からお日様が顔を出し、西の空に月が傾いて行く。これが『朝』の漢字の示す情景です。漢字の足し算では、艸(くさ)+日+月=朝(草原から日が昇る。月が傾く)です。漢字の部首は『月・つき』。『朝』は小学校2年で習う漢字です。
『朝』には潮、嘲などの仲間の漢字があります。詳しくは『漢字の覚え方 朝』をご覧ください。
『夜』は月が出る様子を表す漢字です。詳しくは『漢字の覚え方 夜』をご覧ください。
『夕』は夕方の月を表す漢字です。詳しくは『漢字の覚え方 夕』をご覧ください。
水が見えなくなる場所を『漠(バク)』mòといいます。漢字の足し算では、氵(さんずい・水)+莫(みえない)=漠(水がみえなくなる場所)です。漢字の部首は『氵・さんずい』。漢字の意味は『砂漠』、『なにもなく広い』、『寂しげに広い』です。老子の好んだ漢字で、ひっそりとして広い様子を好む人も多く、『とう』、『ひろ』と名前に使われます。
音読みは漢音の『バク』が普通、呉音の『マク』は使いません。砂漠(サバク)、漠然(バクゼン)の漠です。
『漠(バク)』は中学校で習う常用漢字です。
『幕(マク・バク)』mùは、巾(ぬの)で覆って見えなくする状態を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、莫(みえない)+巾(ぬの)=幕(物をかくす布。幕。将軍がみえない場所。幕府)です。漢字の部首は布を表す『巾・はば』、漢字の意味は『物をかくす布』、『幕(マク)』、『幕府』、『芝居の区切り』、『相撲の幕内』です。
音読みは呉音の『マク』、漢音の『バク』どちらも使います。軍隊の本陣で将軍のいる所です。開幕(カイマク)、徳川幕府(トクガワバクフ)の幕ですね。
『幕(マク・バク)』は小学校6年で習う漢字 です。
『幕』に似た概念で、肉と肉の間の薄い部分を『膜(マク)』móと言います。内臓や、脳を守る膜です。内臓を見えなくさせているものが腹膜(フクマク)です。理科の分野になりますが、細胞を包んでいる薄いものが細胞膜(サイボウマク)です。
漢字の足し算では、月(からだ)+莫(みえない)=膜(内臓を見えなくさせているもの。膜)です。漢字の部首は『月・にくづき』、音読みは呉音の『マク』が普通、漢音の『バク』は使いません。粘膜(ネンマク)、網膜(モウマク)の膜です。
『膜(マク)』は中学校でで習う常用漢字です。
『墓(ボ)』mùは、遺体(イタイ)に土を掛けて見えなくする漢字で、御墓(おはか)を表します。遺体(イタイ)に土を掛けて見えなくするの場所が『墓(ボ)』muです。足し算では、莫(みえない)+土(つち)=墓(死体に土をかける様子)です。部首は『土・つち』です。
音読みは漢音の『ボ』が普通、呉音の『モ』は使いません。訓読みは『墓(はか)』です。墓地(ボチ)、墓穴(ボケツ)の墓です。
『墓(ボ・はか)』は小学校5年生で習う漢字です。
『模(モ)』móは、煉瓦(レンガ)を造る時の木枠を表す形声文字です。大量コピーをする事を模(モ)という漢字を使って表しました。漢字の足し算では、莫(みえない)+木=模(木枠を使っての大量生産する)です。部首は『木・きへん』、漢字の意味は『型』、『模型』、『全体の大きさ』です。
映像ではこんな感じです。
音読みは呉音の『モ』が普通、漢音の『ボ』は使いません。模型(モケイ)・模範(モハン)の模ですね
当時の大量コピーは煉瓦(レンガ)です。敵対民族の侵入に煉瓦で造った長城で対抗したわけです。煉瓦の作成に粘土と木枠を使い、型抜きのときに粘土が見えなくなるので『模』という漢字が大量コピーを表したのです。
『模』は小学校6年で習う漢字です。
暗闇(くらやみ)で索(糸)を手で探るような状態を『暗中模索(アンチュウモサク)』と言います。『模は代用字です。見えないものを手で探る漢字は『摸(モ)』moです。『暗中摸索』と書くのが正式です。『摸(モ)』moは常用漢字ではないので使われないため『暗中模索』と書きます。
見えない相手を慕う(したう)感情を『慕(ボ)』muという漢字で表わしました。慕情(ボジョウ)の慕です。㣺(したごころ)は心の変形で下に付けるので、㣺(したごころ)と言います。
漢字の足し算では、莫(みえない)+心=慕(みえない相手を慕う切ない気持ち)です。漢字の部首は『㣺・したごころ』、音読みは漢音の『ボ』が普通、呉音の『モ』は使いません。訓読みは『慕う(したう)』です。『慕』は中学校で習う常用漢字です。
今はいない人や物を努力して集める事を。『募(ボ)』muといいます。募集(ボシュウ)の募です。漢字の足し算では、莫(いない)+力(努力)=募(いない人を努力して集める)です。部首は『力』です。
音読みは漢音の『ボ』が普通、呉音の『モ』は使いません。訓読みは『募る(つのる)』です。『募』は中学校で習う常用漢字です。
では、夢を食べてなくする動物はなんでしょうか?正解は『獏(バク)』moです。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-4738.html
『漢字の覚え方 莫』 莫 暮 墓 幕 漠 模 摸 慕 募 膜
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1.日が く ( )れる。
2.もけい ( )を製作する。
3.東京台東区の谷中の ぼち( )。
4.徳川 ばくふ ( )。
5.サハラ さばく ( )。
6.正社員 ぼしゅう ( )。
7.知床(しれとこ) ぼじょう( )。
8.あんちゅうもさく( )。
9.もはん ( )解答。
10.細胞 まく( )。
解説です。暮れるは日を、模型、模範は木を、幕は巾(ぬの)を、募る(つのる)は力を、慕情は㣺(したごころ)を莫に加えて下さい。
解答です。暮れる、模型、墓地、幕府、砂漠、募集、慕情、暗中模索、暗中摸索、模範、細胞膜。今日はこの辺で終わりにします。
« 漢字の覚え方 右 | トップページ | 漢字の覚え方 小 »
漢字、面白いですね。
風船あられよく覚えています。懐かしいです。
実家の親たちにこちらのブログの話をしたいと思います。
ブログの更新楽しみにしています。りえ。
投稿: エキドナ | 2013年1月 7日 (月) 10時22分
コメント有難う御座います。
ブログはゆっくり更新していきたいです。
宜しくお願い致します。
投稿: 風船 | 2013年1月 7日 (月) 12時12分
とても為になるお話を、有難う御座います!
ただ、草と草の間に日があると言う事にどうも納得出来ないです...
推測だと、昔は広大な草原で生活してる人が殆どだったから、日の沈む場所が草原だと定着していて、それが由来になった、と言う文化的理由だと思うのですが(かなり無理矢理な推測ですが...(笑))、当たってますか?
投稿: 流離 | 2013年7月13日 (土) 23時08分
コメント有難うございます。その通りだと思います。『莫』という漢字は草原に日が沈む様子を、くさかんむりと日でデザインしたものです。
漢字を作ったのは殷王朝の人々で草原に夕陽は身近なものだったと思われます。もう少し本文をわかりやすくしたいと思います。
投稿: 風船 | 2013年7月13日 (土) 23時27分
わざわざご返信くださって有難う御座います!
いや、十分にわかりやすいご説明だと思います。
根本的に、悪いのは漢字を作った人たちなんですから(笑)
これからも、こちらのブログで色々と勉強させて頂きますm(_ _)m
投稿: 流離 | 2013年7月14日 (日) 16時15分
夕日が草原に沈む様子をイラストにしてみました。
篆文(テンブン)という古い字体も書いてみました。
ゆっくりですが、少しづつ修正・更新して良いものにと思っております。
投稿: 風船 | 2013年7月27日 (土) 10時33分