漢字の覚え方 昜
漢字には発音・意味・構造上の漢字の仲間があります。これらの漢字はある共通イメージを持ち、同じような音を持ち、同じ構成要素からなっています。例えば、昜(ヨウ・あがる)、陽(ヨウ・ひ)、揚(ヨウ・あがる)、楊(ヨウ・やなぎ)、腸(チョウ・はらわた)、場(ジョウ・ば)、傷(ショウ・きず)、瘍(ヨウ)、湯(トウ・ゆ)という漢字は『昜(ヨウ)』yángという漢字を中心にした、『上がる』、『あたたかい』、『長い』という共通イメージをもつ漢字の仲間です。読み方はヨウが基本ですが漢字によってジョウ、ショウ、チョウ、トウなど多少読み方が違います。
このような漢字の仲間を藤堂は『単語家族』、白川は『系列漢字』と呼んでいました。
日常的に使う漢字は2000字とも3000字とも言われますが、漢字の性質を知っていれば、一つ一つの漢字を覚える必要はありません。200位の部首と呼ばれる漢字パーツを覚えて、基本の漢字に組み合わせれば良いのです。『昜(ヨウ)』にどの漢字パーツを組み合わせれば、何の漢字になるかを考えていきます。
漢字は足し算で表わす事が出来るものについては、意味を考えて漢字の足し算でを覚えると便利です。場は小学校2年生 で、陽、湯は小学校3年生、腸は小学校4年生で習う漢字 、傷は小学校6年生で習う漢字 、揚 は中学生で習う漢字 、瘍 は中学生で習うようになった常用漢字 ですが、学年に関係なく、漢字の足し算で一緒に覚えるようにしましょう。基本になる漢字『昜』の字を一つ覚えてイメージで繋げ、漢字パーツを組み合わせれば、その『単語家族』は全て書けるようになります。漢字パーツ(扁・足)の意味を理解すると書き間違いも少なくなります。
『昜(ヨウ)』yángは太陽が地平線から綺麗に昇っていく様子を表している漢字です。
漢字の足し算で覚えるならば、日(太陽)+T彡(きれいな感じ)=昜(太陽が地平線から良い感じに昇っていく)です。日の下の-(横棒)は地平線です。漢字の部首は『日』です。
日の下にTを書いて、斜めに三を書きます。筆運びの都合上、形が変形していますが『昜』の下の部分は斜めの彡(さんづくり)が元になっています。
ちなみに元旦(ガンタン)の旦(タン)の字は陽が昇った瞬間の映像で、意味はもちろん朝です。彡(さんづくり)は昔から中国では良い模様を表しています。例えば彦(良い男)、顔(良い顔)、杉(良い木)、彩(良い色を選ぶ)等です。
『昜(ヨウ)』は、『上がる』、『あたたかい』、『長い』 (長いのイメージは含まれないという説もあります。)の意味を持っているのです。『昜』の基本の読みはヨウ(yang)です。
昜(ヨウ)は常用漢字から外れています。
この漢字の仲間の中には、chの音が入って ジョウ(呉音)・チョウ(漢音)と読む漢字、tの音が入ってトウ(呉音・漢音)と読む漢字もあります。
呉音・漢音とは日本に入って来た時の中国由来の読み方です。最初に中国から入ってきた時の音が呉音(ゴオン)、遣唐使が持ち帰った音が漢音(カンオン)です。いわゆる、音読みのことです。呉音と漢音については、『呉音と漢音』もご覧ください。
『陽(ヨウ)』yángは阝こざとへん(丘)に昜を足したものでで 丘に上がってあたたかい日の光を浴びる事を表しています。あたたかい光です。漢字の足し算で表わすならば、阝(こざとへん・丘)+昜(あたたかい)=陽(丘にあたたかい日の光が当たる様子)です。漢字の部首は『阝・こざとへん』です。
音読みは呉音・漢音とともに『ヨウ』、常用外の訓読みに『ひ』があります。太陽(タイヨウ)、陽性(ヨウセイ)、陽気(ヨウキ)、陰陽(インヨウ・オンヨウ)、陽だまり(ひだまり)の陽です。
『陽(ヨウ・ひ)』は小学校3年生で習う漢字です。
『場(ジョウ)』chǎngは、陽(ひ)のあたる場所を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、土(地面)+昜(あたたかい)=場(あたたかい陽のあたる場所)です。漢字の部首は『土』です。広く平らな地を意味します。物事が行われる所・時期・場合や人の集まる広い所を意味する場合もあります。
音読みは呉音の『ジョウ』が普通で、漢音の『チョウ』は使いません。訓読みは『場(ば)』です。工場(コウジョウ)、運動場(ウンドウジョウ)、会場(カイジョウ)、馬場(バば)、広場(ひろば)、場所(ばショ)の場です。
異体字に塲(ジョウ)があります。(追記しました)
『場(ジョウ・ば)』は小学校2年生で習う漢字です。
『湯(トウ)』tāng shāngは湯気が立ちあがるまでに熱した水。スープを表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、氵(さんずい・水)+昜(あがる)=湯(水が勢いようく沸き立つ様子。スープ)です。漢字の部首は『氵・さんずい』です。
映像ではこんな感じです。
音読みは呉音・漢音が『トウ』、唐宋音が『タン』です。訓読みは『ゆ』です。湯治(トウジ)、湯気(ゆげ)、湯桶(ゆトウ)、茶の湯(チャのゆ)、湯麺(タンメン)の湯です。
『湯(トウ・ゆ)』は小学校3年で習う漢字http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/3-4ad7.htmlです。
『揚(ヨウ・あげる)』yángは、手で高く持ち上げる様子を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、扌(手)+昜(高い)=陽(手で高く持ち上げる)です。漢字の部首は『扌・てへん』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ヨウ』、訓読みは『揚(あ)げる』です。日本では、釜揚げうどん、天麩羅を揚げる(あげる)-手を使って上げる動作に『揚』を使います。国旗の掲揚(ケイヨウ)、抑揚(ヨクヨウ)を付けて読むも揚です。
『揚(ヨウ・あげる)』は中学生 で習う常用漢字です。
漢字の世界では、体を表すのに月を使います。肉という字の省略形で、肉をいちいち書くのは大変なので月を書くことにしているのです。体の一部分で、チョウと読んで、長いものは.. .『腸』です。
『腸(チョウ)』chángは、体(月を使います)のなかにある長い部分を表す形声文字です。漢字の足し算で覚えるならば、月(肉・からだ)昜(ながい)=腸(体の中の長い部分)です。漢字の部首は『月・にくづき』です。
漢音の『チョウ』が普通の読み方で、呉音の『ジョウ』は使いません。常用外の訓読みに『はらわた』があります。大腸(ダイチョウ)、胃腸(イチョウ)、小腸(ショウチョウ)、盲腸(モウチョウ)の腸です。
『腸(チョウ・はらわた)』は小学校4年生で習う漢字です。
余談ですが 月(つきへん)には元になった漢字が3種類あります。にくづき(肉)、そらづき(月)、ふねのつき(舟)の3種類です。今の月(つきへん)はもともと別の3種類の漢字が一緒になっています。なので、もともとは区別して書かれていました。真中の横棒がくっついているのが肉が起源の月、少し離れているのが空の月、点なのが舟の月です。
藤という漢字がありますが 舟の月が使われています。旧い漢字が書かれている御墓を見てください。藤の中の月が横棒ではなく 点になっています。藤の中の月が舟だったことがわかります。
この昜の仲間には少し毛色の変わったものがあります。
『傷(ショウ)』shāngです。『昜(ヨウ)』は太陽の昇る良い感じなのは説明しました。この昜(太陽の光)をさえぎるものが傷(ショウ)です。足し算で表わすなら覚えるならば、イ(人)+ノ+一+昜=傷(太陽の光をさえぎられた人。光・希望を遮(さえぎ)られて傷ついた人)です。漢字の部首は『イ・にんべん』です。漢字の意味は『傷ついた人』、『傷』、『辛く思う』です。
音読みは呉音・漢音ともに『ショウ』、訓読みは『傷(きず)』、『傷(いた)む』、『傷(いた)める』です。凍傷(トウショウ)、中傷(チュウショウ)、損傷(ソンショウ)、傷害(ショウガイ)、傷心(ショウシン)、切り傷(きりきず)の傷です。
漢字の世界では『きず』について、ニュアンスの違いがあります。
傷(きず)傷ついた人。心の傷も表します。 傷(きず)http://bit.ly/1rjHdtB
創(きず)刀でつけられた切り創。 創(きず)http://bit.ly/1LEcVib
瑕(きず)宝石につけた表面の瑕。欠点。 瑕(きず)http://bit.ly/1JaXWcB
疵(きず)ギザギザした疵。欠点。 疵(きず) http://bit.ly/1sPxUXG
傷の元の意味は精神的なダメージのようです。ある本では創(ソウ 刀きず)に同じとあり、切り傷(きず)の意味は後から追加されたようです。
『傷(ショウ・きず)』は小学校6年生で習う漢字 です。
また、体に出来る盛り上がった悪い部分を、『瘍(ヨウ)』yángといいます。腫瘍(シュヨウ)の瘍です。足し算で覚えるならば、疒(やまいだれ 病気)+昜(あがる)=瘍(病気で盛り上がった部分)です。漢字の部首は『疒・やまいだれ』です。
平成22年より『瘍』は中学生で習うようになった常用漢字 (社会一般で使う漢字)に指定されました。
最後は河原に生えてる楊(やなぎ)の木を説明します。ヤナギには、下に枝を留める『柳(リュウ)』(木+留 とどまる、垂れ下がる の意味)と上へ上へと枝を伸ばす『楊(ヨウ)』yáng(木+昜)があります。
『楊(ヨウ・やなぎ)』を漢字の足し算で表わすと、木+昜(あがる)=楊(枝を上へ上へと伸ばす木)、楊(やなぎ)です。漢字の部首は『木』です。写真を見てください。この楊は上に葉や枝を伸ばしていますね。
創成川に生えているシダレヤナギが柳(リュウ・やなぎ)で、真駒内川に自生しているヤナギが楊(ヨウ・やなぎ)です。楊枝(ヨウジ)の楊(ヨウ)です。
『楊』は常用漢字ではありませんが人名漢字です。
映像による漢字の説明、目標は教育漢字(小学校で習う漢字1006字)を含む常用漢字2136字の完全制覇です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-bf3d.html
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習してみましょうか。
1.月と たいよう ( )。
2.うんどうじょう ( )。
3.いちょう ( )の調子が悪い。
4.天麩羅を あ( )げる。
5.国旗の けいよう ( )。
6.切り きず ( )。
7.ゆげ ( )が立ち昇る。
8.温泉へ とうじ ( )に行く。
9.体に しゅよう ( )ができる。
10.食堂で ようじ ( )を使う。
解説です。基本の漢字は昜、陽は阝(こざとへん)を足して陽 で、場は土を足して場、腸(はらわた)は月を足して腸、揚(あ)げるは扌(てへん)を足して揚、傷(きず)はノ一とイ(にんべん)を足して傷、湯(ゆ)は氵(さんずい)を足して湯、腫瘍は疒を足して腫瘍、楊は木を足して楊です。
太陽、運動場、胃腸、揚げる、掲揚、傷、湯気、湯治、腫瘍、楊枝
今日はこの辺で終わりにします。
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ドロノキなどポプラの仲間も楊だね。シルクロードには白楊がたくさんあるらしい。
投稿: ざりがにさんかえるさん | 2012年12月13日 (木) 20時07分
ヘディンの桜蘭の発見には「さまよえる湖 ロプノール湖」のほとりの白楊の存在が欠かせなかったようですよ。
投稿: | 2012年12月13日 (木) 20時15分
コメント有難う御座います。枯れた白楊の林を見て、さまよえる湖を ..という事ですね。
投稿: 風船あられ | 2012年12月13日 (木) 21時57分
楽しく読ませていただきました。ところで、「場」については、旧字体(異体字)は「塲」で、こちらだと「光を遮られた場所」ということになりそうですが。
投稿: ゑちごや | 2018年12月20日 (木) 08時34分
コメントありがとうございます。手元に康煕字典がありませんが、塲は正字でしたでしょうか。
場の異体字には、御承知のように土に長、塲の土の部分が田など他にもあると思います。
音符の関係で異体字ということだと思うのですが、どうでしょう。
投稿: 風船 | 2018年12月20日 (木) 12時49分