漢字の覚え方 工
漢字というのはある一定の決まりのもと、200あまりの漢字パーツをを組み合わせて成り立っています。ある決まりとは『単語家族』、『系列漢字』などと呼ばれる、共通イメージを持ったグループが存在するということです。このグループは同じような音を持っています。例えば工、功、江、虹、攻、項、貢、紅、というのは『工』という部分、『つらぬく』という意味、『コウ』という共通した音をもった『単語家族』です。
小学校では2年で工、4年で功、6年で紅を覚えるようになっていますが、江戸時代の江(中学校で習う常用漢字です)などは社会の授業で出てきますし、別々に覚えるよりも一緒に覚えるのが良いのです。その方が漢字の成り立ちからも自然です。漢字は映像を表した象形文字(ショウケイモジ)、印や記号で表した指事文字(シジモジ)が基本ですから、映像と音で覚えるのが良く、このブログでは可能な限り映像を使っていきたいと思います。
漢字を覚えようとする若い方は、自分なりのイメージを持って、コウと聞いたら工、江、虹、攻、項、貢、紅と頭の中で出てくるように訓練してみてください。驚くほど漢字が書けるようになりますよ。漢字は足し算で説明できるので、工に何を足したたら、どんな漢字になるのかを考えていきましょう。
今日は『工(コウ・ク)』gōngという漢字を説明します。みなさんは道具・工具という何を連想しますか?のこぎり、かなづち、きり等、色々ありますが、漢字的には錐(キリ)です(藤堂)。最近の甲骨文字の研究では鑿(のみ)であるといわれています(落合)。
この錐(きり)や鑿(のみ)で上下に穴をあけた状態が工です。上下に穴をあけるのは技術のいる仕事とされ、細工や技が上手である状態を『工(コウ・ク)』としました。漢字の部首は『工』、仕事関係の漢字です。
映像としてはこんな感じです。
読み方は漢音の『コウ』が普通で、呉音の『ク』と読むこともあります。工場(コウジョウ)、工事(コウジ)、加工(カコウ)、工夫(クフウ)、細工(サイク)の工です。
工(コウ・ク)は小学校では2年生で習う漢字です。
『工』には『上手(ジョウズ)』であるというイメージの他にその作業から、『つらぬく』、『つきぬく』というイメージを持っています。
『上手』系の漢字の代表は『功(コウ・ク)』gongです。力(努力)を要した良い仕事が功で、功を成すことを成功(セイコウ)というのです。漢字の足し算で表してみると、工(上手)+力(努力)=功(努力を要した良い仕事。功)です。漢字の部首は『力』です。
読み方は漢音の『コウ』が普通で、呉音の『ク』と読むこともあります。成功(セイコウ)、論功(ロンコウ)、功名(コウミョウ)、功徳(クドク)の功です。小学校では4年で習う漢字です。
呉音で『ク』と読むときは漢音では『コウ』と読むことがあります。呉音と漢音については呉音と漢音』をご覧ください。
『上手』系の漢字には『巧(コウ)』qiaoもあります。丂は曲がった様子を表す象形(ショウケイ・かたち姿を表します)で、巧み(たくみ)な職人技を表しています。
『巧(コウ)』qiaoは、巧(たく)みな職人技を表す形声文字です。漢字の足し算では、工(技術)+丂(曲がる)=巧(屈曲させる細かな技術が上手である。巧み。たくみ)です。漢字の部首は『工・こう』、意味は『巧(たく)み』です。
音読みは呉音が『キョウ』、漢音が『コウ』です。訓読みは『巧(たく)み』です。巧みなことと拙(つたな)いことを巧拙(コウセツ)、上手で見事なことを巧妙(コウミョウ)、精密で巧みな技術や作品を精巧(セイコウ)、巧みな言葉を巧言(コウゲン)といいます。
『巧(たく)み』は『匠(たくみ)』とも書きます。
非常に良い意味の漢字で『たえ』、『たくみ』、『よし』と名前に使われます。
『巧(コウ)』は中学校で習う常用漢字です。
『つきぬく』系の漢字では『攻(コウ)』gongがあります。工に攵(ぼく、ぼくにょう、ぼくづくり。棒を手に持った象形で、動詞を示す)を足し合わせた漢字です。漢字の足し算では、工+攵(動作)=攻(敵陣を突きぬくような激しい動作。攻撃)です。漢字の部首は『攵・ぼくづくり』、意味は『攻(せ)める』です。
映像化してみるとこんな感じです。
音読みは漢音の『コウ』が普通で、呉音の『ク』は使いません。訓読みは『攻(せ)める』です。攻撃(コウゲキ)するの攻です。また専攻(センコウ)するのように『深く突っ込んでおさめる』の意味にも使います。『攻』は中学校で習う常用漢字です。中学校何年生で習うかは使う教科書によって違います。
『つきぬく』系の漢字では体にもあります。体に関する漢字は月(にくづき。肉の変形)で表します。コウと読んで、月があって、体を貫いた先にあるものは....
そうです。体を貫いた先にあるものは、おしりの穴。肛門(コウモン)です。漢字の足し算では、工+月(身体の一部)=肛(肉体をつらぬいた先にある部分。肛門)です。漢字の部首は『月・にくづき』、『肛』gangは常用漢字ではありませんので中学校では習いませんが、一緒に覚えてしまいましょう。
『つきぬく』系の漢字で体にあるものをもう一つ。
『項(コウ・うなじ)』xiangです。頁(あたま)と背(からだの北向き)をつきぬける部分で『うなじ』を表しています。漢字の足し算では、工(つきぬく)+頁(あたま)=項(あたまと背をつらぬいた部分。項)です。漢字の部首は『頁・おおがい』。項は項目(コウモク)とか事柄一つ一つという意味にも使われています。
映像では矢印で示す部分です。
読み方は漢音の『コウ』が普通で、呉音の『ゴウ』は使いません。訓読みは常用外の『うなじ』があります。『項(コウ・うなじ)』は中学校で習う常用漢字です。
贈り物をするときに、何度も何度も贈り物をする人がいます。これを『貢(みつ)ぐ』といいます。贈り物(貝)を何度もする事が『つらぬく』ようだからです。漢字ではお金、貴重品は貝で表します。漢字の足し算では、工+貝(お金・貴重品)=貢(贈り物を何度もする。貢ぐ。みつぐ)です。
音読みは『コウ』、訓読みは『貢ぐ(みつぐ)』です。貢献(コウケン)、朝貢(チョウコウ)の貢です。『貢』gongは中学校で習う常用漢字です。
他には空を大蛇のように横に『つらぬく』もの、『虹(コウ・にじ)』hóngがあります。
『虹(コウ・にじ)』hóngは、虹(にじ)を表す形声文字です。漢字の世界では、虫は昆虫の他に動物全般や大蛇を指すことがあり、虹というのは天空をつらぬく伝説上の大蛇のことです。この大蛇に見立てた七色の自然現象を虹といいます。この大蛇は雌雄(シユウ)があって雄が虹(コウ)、雌が蜺(ゲイ)とされています。色にも区別があり紫の鮮やかなのが雄の虹、紫の淡いのが雌の蜺とされています。
漢字の足し算で表わすと、虫(大蛇・龍)+工(空をつらぬく)=虹(大空をつらぬく大蛇・龍のような自然現象。にじ)です。部首は『虫』、漢字の意味は『虹(にじ)』、『橋』です。
音読みは呉音が『グ・グウ』、漢音が『コウ』、訓読みが『虹(にじ)』です。虹を描いた天子の旗を虹旗(コウキ)、眼球にあって瞳の大きさを変えて光量を調節する膜を虹彩(コウサイ)といいます。
『虹(コウ・にじ)』は中学校で習う常用漢字です。何年生で習うかは使う教科書によって違います。『部首索引 虫(むし)』も御覧ください。
工に水を足してみましょう。『江(コウ・え)』jiāngという字になりますね。これは中国の長江(チョウコウ)のことです。中国大陸を横に貫く大きな河がありますが、これが長江です。(長江の下流の事を揚子江と言います)。足し算で表わすと、工(ひろがり)+水=江(大陸をつらぬくような大きな水。江)です。中学校で習う常用漢字です。
『江』はおおきな河の意味ですが、日本に入ってきてから湖や入り江、特に琵琶湖(大きな水)を指すようになりました。都に近い湖が近江(おうみ)。都から遠い浜名湖が遠江(とおとうみ)。湖の通称が昔の国の名前にもなっています。大事な漢字だったわけです。もちろんカタカナのエがこの江(え)からきているのはご存じのとおりです。
写真は東京湾です。対岸が霞む位の広がりを持つ入り江(いりえ)や湖、大河が江です。なので江戸の江(え)は、大川(隅田川の昔の呼び名)や入り江の意味の江戸湾を示しています。
糸扁に工を足してできる『紅(くれない・コウ)』hongという漢字がありますが、絳(あか・コウ)という漢字の代わりに新しく作られた漢字です。工(つらぬく)の元の意味には関係がありません。あえて同じイメージで覚えるとすれば、口紅(くちべに)のイメージでしょうか。一文字につらぬかれて引かれた紅の色。もともとは桃色に近い赤色ですが、深紅(濃い赤)のイメージです。女の人、花のような女性もさしています。
紅の訓読みの『くれない』は呉(くれ・中国の呉地方)の藍(あい)からきています。音読みは漢音の『コウ』が普通で、呉音の『グ』、慣用音の『ク』があります。訓読みには『紅(べに)』、『紅(あか)』があります。紅蓮(グレン)、深紅・真紅(シンク)の紅です。秋になり葉が赤くなることを紅葉(コウヨウ)といいますが、特別な読み方で紅葉(もみじ)とも読みます。
糸は染色されるので、色を表す漢字に使われます。
紺http://bit.ly/1xOj18b 青を含む(甘)色
緑http://bit.ly/1FE8NJa、竹皮を剥(は)がす(彔)時の緑色
紫http://bit.ly/1sPxUXG 赤と青を並べて(此)混ぜた色
紅http://bit.ly/101tzpr、 口紅などの色
緋http://bit.ly/1qQSVwG 鮮やかな(非)美しい赤 などです。
紅(くれない・コウ)は小学校6年生で習う漢字 です。
縦の広がりが工です。これに天を表す宀、横の広がりの八を加えたものは何でしょうか。『空(クウ・そら)』kongです。縦と横に広がりを持つ空間が空です。空間ですから天の空(そら)を示します。『空っっぽ』、『空しい(むなしい)』などの意味もあわせ持ちます。空間(クウカン)、空手(カラテ)、空耳(そらみみ)の空です。
漢字の足し算では、縦の広がり(工)+宀(天)+八(横の広がり)=空(縦横に広がる空間です。そら)です。漢字の部首は『穴・あなかんむり』です。
音読みは呉音の『クウ』が普通で、漢音の『コウ』は使いません。訓読みは『空(そら・から)』、『空しい(むなしい)』、『空ける(あける)』です。
空(クウ)は小学校では1年で習う漢字です。
手一本分の空間を空(あ)ける事を控える(ひかえる)といいます。『控(コウ)』kongです。漢字の足し算では、扌(てへん・手)+空(空間)=控(手一本分の空間を空ける。ひかえる)です。
読み方は、音読みが漢音の『コウ』を使い、呉音の『クウ』は使いません。訓読みは『控える(ひかえる)』です。控除(コウジョ)、控訴(コウソ)の控です。
『控』は中学校で習う常用漢字です。
身体の中の空間を『腔(コウ・クウ)』qiangといいます。漢字の足し算では、月(身体)+空(空間)=腔(身体の中の空間)です。漢字の部首は『月・にくづき』、意味は『身体の中の空間』です。
漢音・呉音は『コウ』、慣用音が『クウ』です。イソギンチャクを腔腸(コウチョウ)動物といいます。医学用語では『クウ』と慣用音で読むのが慣例です。鼻腔(ボコウ・ビクウ)、口腔(コウコウ・コウクウ)、腹腔(フクコウ・フククウ)です。
『腔』は人名用漢字です。
http://huusennarare.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-8ebc.html
『漢字の覚え方 工』 功 巧 攻 肛 貢 項 江 虹 紅 空 控 腔
参考図書http://bit.ly/1Xs359Oです。漢字についてより詳しく知りたい方は、←左記ブログページの本をお読みください。
少し練習しましょう。
1自動車 こうじょう ( )。
2.創意と くふう ( )。
3.大きな仕事で せいこう ( )する。
4.こうみょう ( )な仕掛け。
5.たく( )み な話術。
6.この試合は こうぼう ( )の切り替えが大事だ。
7.みつ( )ぎ物を献上する。
8.こうもく( )に分類して整理する。
9おおぞら( )に にじ ( )がかかる。
10.こう( )一点。女性が出場している。
11.痔(じ)の具合が悪くて こうもん ( )科で診察を受ける。
12.えどじだい( )。
13.住宅ローン こうじょ ( )を申請する。
解答です。工場、工夫、成功、巧妙、巧み、攻防、貢ぎ、項目、大空、虹、紅、肛門、江戸時代、控除。今日はこの辺で終わりにします。
『酔いどれ句会』というのに参加しています。俳句を読んでいます。
夏祭りウスターソース紅生姜 風船
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「つらぬく」ではなく「モノの移動、路の象形」じゃないかなと思いました。
つらぬくは貫くがある。
ある場所からある場所へ。
→(矢印)のような明確な方向は持ってない。
貢ぐはモノのやりとり、虹も肛も貫くというより単に路のように存在している。
「つらぬく」という言葉は、貫かれるモノにも意識が向いており、すでに存在するものに後から侵入する、破壊する意味があると思います。「つ」きやぶって「ぬけ」る。
「コウ」という音にも、つらぬくほどの印象はありません。
紅は、一本の赤い糸や紅をさすイメージで、目立つ色の糸を表したのかな、と推測します。
しかし、つらぬいた後の形、と言えば確かにそうですし、端的に表現することのできる言葉なので「つらぬく」でもいいかな、とも思います。しかも、元々の字形や作者が「つらぬく」イメージをもっていたかもしれませんし。ここを失念していました。
何かひっかかる、間違っているようで間違ってない、よくわからない、という感覚でコメントを残させていただきます。
投稿: 芭奈菜 | 2020年6月 2日 (火) 10時57分
ありがとうございます。
投稿: 風船あられ | 2020年6月29日 (月) 20時20分